2011年8月16日火曜日

水-化学反応の連成

今月号の応用地質に、「天然火山灰吸着層を用いた掘削ズリからのヒ素およびホウ素の溶出低減」といった論文が載っていました。

思うところ、いろいろあります。が、問題点の指摘は今までの繰り返しになりますので、建設的な点だけ残しておきましょう。

こういったAsなどの溶出量を求められる問題はよくあります。が、解析的に解こうとする場合、この論文には無い以下のデータが必要です。
  1. 鉱物の定量結果
  2. Asの含有形態の把握(反応のコンセプトモデル構築)
  3. 現場での水理パラメーター(水理地質のコンセプトモデル構築)
  4. 吸着サイト数
1.に関してはRockJockである程度把握できます。研究職が頑張って、±5%以内に収まるように結果を出してくれました。縦型設置のXD-D1ですから、この程度は目をつぶりましょう。研究室ならもっと良い分析機器があるでしょうし、精度よくデータが得られるはずです。

2.については、反応が平衡状態にあるものと仮定すれば、反応計算のみでもコンセプトモデルを絞り込めます。ここ、重要ですね。Fe(OH)3に吸着しているのか、FeS2に微量成分として混入しているのか、有機物との関連はどうか、炭酸塩との関連はどうかなど、自由に計算し、実際に合うものを選べばよいわけです。海外の参考書にも例が載っていますし、検索で探しても引っかかります。

3.水-化学反応の連成(連結?)解析の場合、水理パラメーターが一式必要です。現場での降雨浸透を考えたモデルが必要です。これは、日本でも多くの参考書が出ていますし、実務でも多用されています。

4.吸着層を考慮するのであれば、その限界を知っておく必要があるでしょう。無限に吸着するわけではありません。解析的には吸着サイト数の把握です。これ、難しいですが、このモデル化の仕方によって結果が大きく変わります。
http://phreeqc.blogspot.com/2010/10/as.html
濃度によってはAsは吸着層から離脱し間隙水に戻ります。サイトからの流出が薄くなり、遅れたらOKという種のものでもないと思うのですが、設計者はどのようなコンセプトをお持ちなのでしょうか?私の知らない領域です。こういった思想を持つ技術者に会う機会があれば伺ってみましょう。


しかし、理論解でも数値計算でも同じことですが、今回のカラム試験では、出口側の濃度に関する境界条件の設定が難しいですね。濃度勾配一定条件を短い吸着層に適用可能でしょうか?でも、この条件で解くしかないのでしょうね。数値計算では2層に分けて解く方が無理のないモデル化かも知れませんが、BESTではないでしょう。もっとも、理論解では1層均質が前提のため、2層に適用した時点でOUTです。
もっとよい方法があるはずですので、今後の課題としておきましょう。

ところで、こういった問題は化学工学の技術者や研究者が介入すると、一網打尽にされるのではないでしょうか?反応や流体のソフトもお持ちでしょうし、熱力学データを取るのもお手の物でしょう。
仕事で既得権益を死守するのはよくあることですが、研究分野にも棲み分けがあるのでしょうか?

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