2026年2月22日日曜日

文献:Trend Classification of InSAR Displacement Time Series Using SAE–CNN

Trend Classification of InSAR Displacement Time Series Using SAE–CNN

AI要約

背景
マルチテンポラルInSAR(MTInSAR)技術は、広範囲の地盤変動を測定する上で貴重なツールですが、数百万のコヒーレントターゲット(CT)から得られる変位時系列を解釈し、危険な信号を特定することは困難です。既存の統計的手法は、複雑な変形を記述するのが難しく、InSAR時系列に不可避な位相ノイズの影響を受けやすいという限界がありました。また、先行の機械学習アプローチでは、教師なし学習の結果が初期パラメータや専門知識に大きく依存し、教師あり学習では特徴量エンジニアリングや手動介入の課題がありました。

手法
本研究では、InSAR時系列の分類を目的として、最適化されたStacked Autoencoder(SAE)とConvolutional Neural Network(CNN)を組み合わせた深層学習手法(SAE-CNN)を提案しています。このハイブリッドモデルは、SAEがInSAR時系列からノイズの影響を低減し、微妙な変形パターンに関連する深層特徴を抽出する能力と、CNNが時系列内の様々なスケールで変位トレンドを捉える能力を組み合わせています。SAEは、softmax分類器を備えたバックプロパゲーションニューラルネットワーク(BPNN)によって最適化されています。

分類対象の変形トレンドは、「安定(stable)」、「線形(linear)」、「加速(accelerating)」、「減速(deceleration)」、および「位相アンラップ誤差(PUE)」の5つのカテゴリに定義されました。これらのカテゴリに属する5000のサンプル(各カテゴリ1000サンプル)が、手動の視覚的解釈と相互確認によってラベリングされ、70%がモデルの教師あり学習に、30%が検証に使用されました。データは、Sklearnライブラリを用いて前処理(データ準備、クリーニング、正規化、学習/テスト分割など)され、異常な変形信号に対するモデルの感度を高めるために、線形、加速、減速のカテゴリには重み付けがされました。モデルの性能評価には、精度(accuracy)、適合率(precision)、再現率(recall)、F1スコア、および混同行列が用いられました。

本手法は、2017年1月から2022年9月までの171枚のSentinel-1画像から抽出された561,839のCTに対し、中国昆明市を対象地域として適用されました。昆明市は、急速な都市化、軟弱な地盤、および顕著な地盤変形のため、研究対象として選ばれています。

結果
提案されたSAE-CNNモデルは、ラベル付けされたサンプルに対して95.1%の精度を達成しました。比較実験では、本モデルが従来のCNN、Random Forest(RF)、Support Vector Machine Classification(SVC)といった他の分類モデルよりも、精度、適合率、再現率、F1スコアのすべての指標で優れていることが示されました。特に、従来のCNNと比較して、精度で6.4%、F1値で6.1%の改善が見られました。混同行列の分析により、本モデルは、加速パターンと減速パターンを混同しがちな他のモデルと比較して、加速パターンの認識において7.7%の精度向上を示し、異なる分類カテゴリを区別する能力が優れていることが実証されました。

SAEの有効性は、t-SNE可視化によっても確認され、SAEがInSAR時系列データの分離可能性を著しく向上させ、ノイズを低減し、複雑な分類シナリオを容易に分類可能なものに変えることが示されました。

昆明市への適用結果では、CTの約79.28%が安定していると分類され、残りのうち線形が10.70%、減速が5.30%、加速が4.72%、PUEが3.60%でした。特に、S2地域では危険な加速変形が住宅地で観測され、S3地域では減速変形が主であることが示されました。本手法は、InSAR時系列単独では見逃されがちな地域(例:P1クラスター)における減速変形を特定するなど、広域InSAR結果の解釈を補完する能力があることが示されました。また、不規則な建物や建設活動がある地域(P4, P5, P6)で複雑な変形パターンを識別しました。

計算時間については、提案手法の訓練およびテストに要した時間は32.18秒であり、CNN(3.36秒)やRF(1.69秒)よりは長いものの、SVC(413.46秒)よりは大幅に高速であり、合理的な計算速度で競争力のある精度を提供することが示されました。

考察
本研究のSAE-CNNモデルは、人間の介入なしに、大規模な地盤変動の特徴を区別し、非線形変形信号を検出できるという利点があります。これにより、変形パターンの理解が深まり、MTInSAR成果品の定性的な解釈が向上します。

ただし、本研究で設定された5つのカテゴリは、実際の変形現象を簡略化したものであり、すべての複雑な変形を網羅しているわけではないため、誤分類(誤警報)につながる可能性が指摘されています。この問題は、より高品質な参照サンプルを用いたモデル学習や、教師なし学習手法の検討によって軽減できる可能性がありますが、後者にはアルゴリズムとパラメータ選択、結果の解釈という課題が伴います。処理時間のさらなる改善は、非常に大規模なデータセットへの適用を考慮する上で必要です。本分類結果は、変形プロセスによる悪影響を軽減するための意思決定や予防的措置において重要な情報源となります。


精度や誤差の評価を除き、ひとまず変動マップの作成まで自動化できるようになります。

文献:Is higher resolution always better?

NHESS - Is higher resolution always better? A comparison of open-access DEMs for optimized slope unit delineation and regional landslide prediction

AI要約

背景 (Background): デジタル標高モデル(DEM)は、地形形態の再現や土砂災害誘発要因の導出、斜面単位(SU)の区画において、土砂災害研究に不可欠です。DEMの品質は土砂災害予測能力に大きく影響するため、適切なDEMの選択が重要ですが、しばしば解像度やアクセス性のみで選ばれてきました。

手法 (Methods): 本研究は、イタリアのマルケ地域で、土砂災害感受性評価のための最適なDEMとSUパラメータを特定することを目的としました。 フェーズ1では、ALOS、COP、FABDEM(グローバルDEM)とTINITALY(国内DEM)を、高解像度航空ライダー(参照DEM)と比較しました。比較基準は、標高差、残差DEM、粗さ指数、SU区画能力などです。 フェーズ2では、フェーズ1で最良とされたTINITALY30mを使用し、SUの最小面積(a)と円形分散(c)のパラメータを調整してSU区画を生成。SUの内部均一性・外部異質性(F)、SU内の土砂災害領域割合(A)、SUあたりの土砂災害密度(D)を統合したSメトリックという新しい最適化手法を提案しました。土砂災害感受性モデルには一般化加法モデル(GAM)が適用され、地形派生変数などが説明変数として使用されました。

結果 (Results): フェーズ1において、TINITALY30mがすべての評価指標で最も優れた性能を示しました。FABDEMはCOPと比較して斜面などの地形派生指標の表現において改善が見られず、TINITALY10mよりもTINITALY30mが優れており、高解像度が必ずしも良い結果を保証するわけではないことが示唆されました。 フェーズ2では、Sメトリックによりa=300x10^3 m^2、c=0.1の組み合わせが最適なSU区画と特定されました。土砂災害感受性モデルの評価指標(AUC、F1スコア、Kappa)はSメトリックの性能とは直接一致せず、訓練データセットのバランスに影響されることが判明しました。

考察 (Discussion): 本研究は、土砂災害研究においてTINITALY30mがマルケ地域でSU定義に最適であることを示しました。DEMは解像度だけでなく、データ品質や目的への適合性が重要であり、高解像度でもアーティファクトがあれば性能は低下します。提案されたSメトリックは、土砂災害の空間的特徴を捉えたSU最適化に有効ですが、感受性モデルの評価指標解釈には訓練データバランスの考慮が不可欠であると結論付けられています。

国内ではLPが公開されていますが、国外ではそうではないのでしょう。DEMの精度を比較し、目的(Landslide Susceptibility 評価)に適したユニット分割が重要とされています。機械学習の観点では、いくつかの解像度を試し良い結果を出すものを選定しますが、これはサイエンスではありません。斜面単位を目的に応じて作成・選定する、というのが求められる手順でしょう。

SU最適化に用いられた指標は以下のとおりです。

AI要約

1. F(アスペクトセグメンテーション指標 / Aspect Segmentation Metric)

 概念: 地形を、類似したアスペクト(斜面方位)特性を共有するピクセルをグループ化することによって分割するという概念に基づいています。

目的: SUの内部均質性(homogeneity)と外部異質性(heterogeneity)を評価するために使用されます。

 計算: 内部均質性を示す局所アスペクト分散 (V) と、隣接するSUの外部異質性を示す自己相関 (I) に基づいて算出されます。

 解釈: F値が高いほど、地形のセグメンテーション(分割)が優れていることを示します。これは、SUの内部は均質であり、隣接するSUとの間には明確な異質性があることを意味します。

2. A(地すべり拡張係数 / Landslide Extension Coefficient)

 概念: SU内で発生した地すべりの総面積のうち、そのSU内に収まっている地すべり面積の割合を合計したものです。

 目的: SUが地すべり領域全体をどれだけ適切に含んでいるかを評価します。

 計算: A = (i番目のSU内の累積地すべり面積の合計) / (i番目のSU内で発生した全地すべりイベントの総面積の合計)。

 解釈: A値が高いほど、SUが地すべり領域全体をよりよく包含していることを示します。理想的には、地すべりの領域がSUの外部に漏れ出ることなく、SU内に完全に収まっている状態が最適とされます。SUのサイズが大きいほど、地すべり全体を包含する可能性が高まる傾向があります。

3. D(地すべり密度係数 / Landslide Density Coefficient)

 概念: 各SUにおける平均地すべり数の逆数です。

 目的: SUの寸法の過大評価を避けるために導入されました。理想的には、SUは単一の地すべりに限定されるべきです。

 計算: 1/D = (i番目のSUで発生した地すべり数の合計) / (不安定なSUの数)。したがって、D値はD = (不安定なSUの数) / (i番目のSUで発生した地すべり数の合計)となります。

解釈: D値が高いほど、SUがより小さい領域に分割され、各SUに含まれる地すべり数が少ないことを意味します。これにより、SUの寸法が過大評価されることを防ぎ、地すべり事象をより正確に表現できます。

 

Sは、上記で説明したF、A、Dの3つの指標を統合した最終指標です。

計算: Sは、F、A、Dの正規化された値の積として定義されます。

 S(a,c) = [(F(a,c)-Fmin(a,c))/(Fmax(a,c)-Fmin(a,c))]
     * [(A(a,c)-Amin(a,c))/(Amax(a,c)-Amin(a,c))]
     * [(D(a,c)-Dmin(a,c))/(Dmax(a,c)-Dmin(a,c))]

 ここで、aはSUの最小表面積、cは地形の最小円形分散を表すパラメータです。

SUが最適と判断されるロジック: S指標を最大化するSUの最小表面積(a)と円形分散(c)の組み合わせが、研究地域におけるSU区画の最適なものと判断されます。 これは、F、A、Dの各指標がそれぞれSUの異なる「良さ」の側面(幾何学的分割の質、地すべり包含の効率、SUサイズの適切性)を評価しているため、S指標を最大化するということは、これらのすべての側面をバランス良く考慮し、総合的に最も優れたSU区画を見つけることを意味します。

簡単に言えば、SUが地すべりモデリングにおいて効果的であるためには、

1. 内部が均質で、隣接するSUとは明確に異なる(F値が高い)

2. 発生した地すべりをできるだけ完全に包含している(A値が高い)

3. 地すべりの寸法を過大評価せず、適切なサイズである(D値が高い) 

という3つの特性を同時に満たす必要があります。S指標は、これらの目標を正規化された積として統合することで、最適なSU区画を特定するための包括的な評価基準を提供します。


2026年2月11日水曜日

河川砂防技術基準+生成AI

昨年から「NotebookLMがすごい!」と耳にしていましたが、別のLLMを利用することが多く利用する動機がありませんでした。
「この資料の中の情報に限る」というケースもありましたが 、情報をGoogle 側に渡すわけにもいかず、結局今まで触っていませんでした。

そのような中、国交省さんが河川砂防技術基準の生成AI用のデータセットを公開されていることに気づきました。

 活用しやすい河川砂防技術基準に向けての取り組み - 国土交通省水管理・国土保全局

生成AI活用のための学習用データセットの公開 (試行版)

河川砂防技術基準の参照に生成AIを活用するため、学習用のデータセット一式(以下の表参照)を作成しました。
参考に、無償で提供されているサービス(Google NotebookLM※1)の活用事例を紹介します。
これは画期的!?(ますます文字を読まなくなりそうです。)
早速使ってみました。

NotebookLMのチャット機能はOK。概要を把握するには十分です。
スライド機能はイマイチ。絵を生成できることは素直に感心しますが、専門的な絵は生成が難しそうでした。もう少し、時間が必要でしょうか。


今後、国交省さんは生成AIの利用を推進されるのでしょうか?他の基準も電子化が進んでいますが、生成AI利用での配信へ展開されるのかも知れません。頭の片隅に置いておきましょう。


2026年2月8日日曜日

文献:LSM uncertainty analysis

PyLandslide: A Python tool for landslide susceptibility mapping and uncertainty analysis - ScienceDirect

AI要約

背景
地すべりリスク評価において、専門家の主観的判断による重み付けが一般的だが、バイアスや不確実性が問題。
機械学習を用いた統計的アプローチが発展しているが、重みの不確実性の定量化が不十分。
既存ツール(LSM Tool Pack、LSAT PM等)は存在するが、不確実性分析機能が限定的。

手法
1.ジニ不純度に基づく特徴量重要度(重み)の計算
1)ランダムフォレスト内の各決定木において、ある特徴量で分岐する際のジニ不純度の減少量を計算
2)全ての木について、各特徴量による不純度減少量を合計
3)各特徴量の重要度 = その特徴量による不純度減少の合計 / 全特徴量による不純度減少の総和

2.不確実性分析の手法
20,000回の反復計算を実施
各反復で地すべり・非地すべり地点の80%をランダムサンプリング
accuracy 0.75以上のモデルのみの特徴量重要度(feature importance)を記録
重要度の範囲を集計し、限られたインベントリデータに起因する不確実性を定量化

3.LSI(Landslide Susceptibility Index)の算出
ある地点が地すべりに対してどれだけ脆弱であるかを数値化した指標
PyLandslideでは、複数の要因を重み付けして統合することで、空間的な地すべり発生リスクを評価

LSI = Σ(Wi × Si)

LSI: 地すべり感受性指数
Wi: 要因iの重み(weight)
Si: 要因iのスコア層(score layer)
n: 考慮する要因の総数

スコア層(Si)の算出方法
連続データ型要因(降水量、傾斜、道路距離など):
分位数による分類: データを11個の分位数(quantile)に分類
地すべり件数の計算: 各クラス内で発生した過去の地すべり件数を集計

降水量・傾斜: そのクラス以下で発生した地すべりの累積パーセンテージ
道路距離: そのクラス以上で発生した地すべりの累積パーセンテージ
降水量が17~80mmのクラス: 80mm以下で発生した地すべりの累積割合がスコア
道路距離が143~286mのクラス: 143m以上の距離で発生した地すべりの割合がスコア

カテゴリカルデータ型要因(土地被覆、岩相など):
各カテゴリ内で発生した地すべり件数を計算
各カテゴリのスコア = そのカテゴリ内で発生した地すべりのパーセンテージ

標準化
全ての要因について、スコアを0~100の範囲に線形正規化:
0: その要因クラスの最低寄与度
100: その要因クラスの最高寄与度

LSI分類基準
Very low: 0 ≤ LSI ≤ 20
Low: 20 < LSI ≤ 40
Moderate: 40 < LSI ≤ 60
High: 60 < LSI ≤ 80
Extremely high: 80 < LSI

感度分析の実施回数
歴史的降水条件について200回のランダムな重みの抽出を実施
9つの気候予測について各200回ずつ実施
内訳:
歴史的降水条件(1981-2023年):200回
将来予測(2041-2050年):9つの気候シナリオ × 各200回 = 1,800回
合計:200 + 1,800 = 2,000回

9つの気候シナリオ:
3つの気候モデル(ACCESS-ESM1-5、MRI-ESM2-0、UKESM1-0-LL)
3つの共有社会経済経路(SSP126、SSP245、SSP585)
3モデル × 3シナリオ = 9つの組み合わせ
この結果、LSIも範囲として表現される

結果
イタリアにおける6要因の重要度(重み)
道路からの距離: 0.43〜0.52(中央値0.47)
・最も影響が強い
・過去の地すべりの85%が道路から143m以内で発生

傾斜: 0.16〜0.23(中央値0.20)
・2番目に重要
・過去の地すべりの70%が傾斜9%以上の地域で発生

土地被覆: 0.10〜0.13(中央値0.12)
地質: 0.07〜0.09(中央値0.08)
降水量: 0.05〜0.07(中央値0.06)
TWI(地形湿潤指数): 0.05〜0.08(中央値0.06)

モデル精度
訓練データでの全体精度: 0.80〜0.82
テストデータでの全体精度: 0.75〜0.80
過学習は認められない

lSI評価
歴史的期間(1981-2023):
「極めて高い」: 7.8〜9.5%
「高い」: 23.8〜26.8%

将来予測(2041-2050):
「極めて高い」: 5.3〜7.6%(減少傾向)
「高い」: 21.5〜28.3%

イタリア北西部と南部で大幅に低下
北東部で増加

考察
人為的要因(道路)が最大の影響
道路建設に伴う斜面切土や人間活動が斜面安定性を低下

不確実性の重要性
重みの不確実性範囲を考慮することで、より堅牢な意思決定が可能
インフラ投資計画において、重みの不確実性を考慮した堅牢な地すべりリスク評価が可能

研究の限界
気候変動の影響評価
降水量変化のみを考慮、温度・山火事・植生変化は未考慮

入力データの精度
ITALICAデータベースの位置精度は最大5.6kmの誤差
より高精度なデータが望ましい

閾値の設定
accuracy0.75の閾値は本研究で設定したが、絶対的な基準ではない
ユーザーのニーズに応じて調整可能

国外では、LSM作成において機械学習を用いるアプローチは既に一般化していると言えますが、そこに不確実性評価が入っています。といっても、重要度の示し得る範囲を利用しているだけですから、新たなツールは不要です。
この文献のLSIの定義が正解かどうかはわかりませんが、少なくとも確率を導入する方針については同意です。

2026年2月6日金曜日

AIの利用法

【優勝🥇】防衛省サイバーコンテストをAIで攻略した話 #Security - Qiita

このような時代なのですね。AIで攻撃、AIで防衛。

勝敗はAIで解けない超高難度の問題で決まります。

うーん。考えさせられます。

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20260211追記

そういえば、「半分は生成AIにつくらせたでしょう」と思わせる海外の方からもらった査読結果がありました。それなら生成AIに回答の素案を作成させましょう、と考えたことがあります。単純なのか複雑なのかわからない時代で、戸惑います。


文献:Probabilistic rainfall thresholds for landslide occurrence using a Bayesian approach

 Probabilistic rainfall thresholds for landslide occurrence using a Bayesian approach - Berti - 2012 - Journal of Geophysical Research: Earth Surface - Wiley Online Library

AI要約+α

背景
従来の地すべり予測手法は、地すべりを引き起こした降雨イベントのみを考慮し、決定論的閾値を提供してきた。しかし、斜面安定性は降雨だけでなく、多数の要因の組み合わせで決まるため、同じ降雨条件でも異なる結果(地すべり発生/非発生)が生じる。経験的モデル:降雨強度-継続時間(ID)閾値が一般的だが、不確実性の定量化が不十分である。

研究の対象地域
イタリア・エミリア=ロマーニャ州の山岳地域(12,000 km²)
1939年以降の4,000件以上の地すべり履歴データ
176箇所の雨量計による日降水量データ


手法
1. ベイズの基本手法(1次元解析)
P(A|B) = [P(B|A) × P(A)] / P(B)
P(A|B): 事後確率 - 降雨Bが発生したときに地すべりAが起こる確率(求めたい値)
P(B|A): 尤度 - 地すべりが発生したときに降雨Bが観測される確率
P(A): 事前確率 - 降雨に関係なく地すべりが発生する確率
P(B): 周辺確率 - 地すべりに関係なく降雨Bが観測される確率

実際の計算では、以下のように相対度数で近似:
P(A) ≈ NA / NR  (地すべり発生数 / 全降雨イベント数)
P(B) ≈ NB / NR  (降雨Bの発生数 / 全降雨イベント数)
P(B|A) ≈ N(B|A) / NA  (降雨Bで発生した地すべり数 / 全地すべり数)P
(A|B) ≈ N(B|A) / NB

一変量例(強度 I>40 mm/日)
・事前 landslide 確率:P(A)=5/20=0.25
・強度大の割合:P(B)=P(I>40)=9/20=0.45
・発生時の強度大割合(尤度):P(B|A)=4/5=0.8

→ P(A|I>40)=P(B|A)·P(A)/P(B)=0.8·0.25/0.45≃0.44

降雨B発生時の地すべり確率は44%である。これは尤度P(B|A)=80%とは異なることに注意が必要。事前確率と周辺確率を考慮する必要がある。

2. 2次元ベイズ解析
2つの変数B(降雨強度I)とC(降雨継続時間D)を考慮:
P(A|B,C) = [P(B,C|A) × P(A)] / P(B,C)
ここで、P(B,C)は2変数の同時確率(ある強度と継続時間の組み合わせが観測される確率)を表す。

各セルでの確率計算
二変量例(I>50 mm/day かつ D<=1 day)
・事前 landslide 確率:P(A) = 5/20 = 0.25
・降雨条件を満たす割合:P(B,C) = P(I,D) = 4/20 = 0.20
・発生時の当該領域割合(尤度):全地すべり5件中、この条件で発生2件
   P(B,C|A) = P(I,D|A) = 2/5 = 0.40

→ P(A|I>50, D≤1)= P(A|B,C) = [P(B,C|A) × P(A)] / P(B,C) =0.40·0.25/0.20=0.50

I-D平面全体の確率分布ヒストグラムを作成。
強度と継続時間の相互作用効果を把握。
確率の空間分布パターンを視覚化。
高リスク領域の明確な識別。


結果
1次元ベイズ解析の結果
有意な変数:総降雨量E、継続時間D、平均強度I
P(B|A)とP(B)の分布が明確に異なる
P(A|B)が事前確率P(A)=0.005を大きく上回る
特に降雨強度Iが最も有意:I>100mm/dayでP(A|I)=0.28

非有意な変数:先行降雨AE14, AE30
P(B|A) ≈ P(B)
P(A|B) ≈ P(A)

研究地域では先行降雨は地すべり発生と相関が低い。
降雨の激しさ(総量、継続時間、強度)とともに地すべり確率が増加。
ただし、極端な値では確率が減少する傾向(サンプルサイズの問題と定義バイアスによる)。

2次元ベイズ解析の結果
特定のI-D値で確率が急激に増加。これはシステムの状態の根本的変化、物理的閾値の存在を示唆。不確実性を含めた警報システムの構築に有用。


考察

1. ベイズ手法の利点
統計的厳密性:事前確率と周辺確率を考慮:尤度P(B|A)だけでなく、降雨の頻度P(B)と地すべり発生率P(A)を組み込む。
認知バイアスの回避:人間の直感的判断は事前確率を無視しがち(「80%の地すべりがI>50で発生」≠「I>50で地すべり確率80%」)。
不確実性の定量化:0〜1の連続値で確率を表現、決定論的手法の曖昧性(「閾値超過時に何が起こるか?」)を解消、信頼区間により推定の信頼性を評価

2. 先行降雨の非有意性
一般に細粒土壌では先行降雨が斜面安定性に重要とされるが、本研究では相関が低い。研究地域の地すべりは主にイベント降雨に対する急速な水文応答が支配的。60%の地すべりが降雨終了時またはその直後に発生。
深層地すべりでも、長期的な要因よりも短期的な降雨イベントが引き金となる。

3. 物理的閾値の示唆
I-D平面の特定領域で地すべり確率が急激に上昇。これはシステムの状態変化(安定→不安定)を示唆。
確率的手法であっても、背後に物理的メカニズム(臨界間隙水圧など)が存在。確率分布のパターンから、真の物理的閾値の存在を推測可能。

4. 方法論的課題と解決策
多発地すべりの扱い
方針:同一降雨による複数地すべりは1イベントとしてカウント。
理由:P(A) = NA/NR > 1を避け、統計的整合性を保つ。

バイアスへの対応
問題:誘因降雨は地すべり発生日で打ち切られるが、非誘因降雨は降雨終了まで継続。
影響:極端な長継続時間での確率推定に影響。
緩和:信頼区間の提示、データの60%が降雨終了時に発生することで影響を軽減。

Landslide発生降雨をベイズ手法で評価した少し古い文献です。基本的には、国内で研究されている降雨数ベースの評価と変わりません。
国内では短期雨量と土壌雨量指数の2軸で評価されます。スネーク曲線を書いてピークで評価したりするのですが、原点から離れるにつれてレアな雨(P(B,C) ≒0)となり、確率が極端に高くなります。これ、補正したいですよね。

2026年2月2日月曜日

文献:Contact modelling approach to simulate water flow in a rock fracture

Contact modelling approach to simulate water flow in a rock fracture under normal loading – Modelling report of Task 10.2.2. Task 10 of SKB Task Force GWFTS – Validation approaches for groundwater flow and transport modelling with discrete features – SKB.com

AI要約

背景
未開口の自然岩盤亀裂に対し、法線荷重を変化させたときの流量を「ブラインド予測」する課題。
亀裂を有する岩試料で水理‐力学試験を実施後、亀裂を開口し両面を高精度スキャン、その後再装着して再試験。
目的:単一亀裂での荷重‐変形‐流れの関係と流路のチャンネリング、ならびに実務的な検証手法の検討。

手法
使用コード:COMSOL Multiphysics。
流れ:低レイノルズ数の定常流とし、Navier–Stokes式から慣性項を除いたStokes流として 3D 解析。
岩盤変形:線形弾性・等方・連続体とし、亀裂面の接触を「拡張ラグランジュ法」による接触条件で表現。

モデル群:
Analytical Model:平行平板間流れ(立方則)でスキャン精度が流量に与える影響を評価。
Parallel Plate Model:3D平行平板の数値解で解析解との整合とメッシュ条件を確認。
Small Surface Model:小さな実測亀裂面(Task 10.2.1)を用い、上面のx,y,z変位とz軸回転の影響をDSDによる感度解析。
Nearing Contact Model:上下岩体を初期ギャップから押し付ける接触モデル(1 MPa荷重)。
Departing Contact Model:初期的に重なりを与えた状態から上盤を押し上げる接触モデル(0,1,2,4,6,8 MPa)。
接触オフセット:数値的な「めり込み」を避けるため、上下面の最小間隔を強制(0.05–0.1 mm)。この仮定が開口と流量を増大。

結果
Analytical / Parallel Plate:開口 = スキャン精度0.035 mmに対応する流量は約0.1 ml/sで、実測流量と同程度。実測から逆算した等価平行平板開口はいずれもスキャン精度以下。
Small Surface Model:x,y,z変位はいずれも統計的に有意で、とくにz方向変位が流量に最も強く影響。z軸回転はほぼ無影響。
Nearing / Departing Contact:接触解析から得た変形後空隙でStokes流解析を実施。

いずれの荷重・接触アプローチでも、予測流量は実測より数桁大きい。接触オフセットやスキャン精度、初期位置誤差、補間誤差、弾性仮定を考慮しても、この差を説明できない。
von Mises応力は局所的に一軸圧縮強度を超え、現実には局所破壊や塑性変形が起こる可能性が高いことを示唆。

考察
スキャン精度0.035 mmでは、実測レベルの微小流量を信頼性高く再現するには不足。逆算開口が常に精度以下であるため、幾何データに根本的な限界。
上下亀裂面の水平方向移動(x,y)とより精密なインターロッキング、ならびに岩の塑性変形・破壊を無視しているため、実際より開口が大きく評価され、流量を過大評価している可能性が高い。
接触オフセットは数値上必要だが、同時にモデルに系統的バイアス(過大開口)を導入する。
既知の不確実性を考慮しても、モデルと実験の乖離は説明できず、「未知の支配的要因」が欠落していると結論。
接触モデル+詳細幾何に基づく手法は、本課題のような極めて小さい流量の予測には実務的でなく、より小さい試料や高精度スキャン、あるいは別の概念モデルが必要と提言。
併せて、複数現象・複数検証を通じたモデルの「妥当性ランクR」を定義する検証評価指標を提案し、今後のモデル群の統合的評価に用いることを示唆。

0.035mmで精度が不足とは、驚きです。いえ、このような制度が出せるのも驚きなのですが。地層処分ですので細かい。
使われた 3 つの接触法(ペナルティ、拡張ラグランジュ、Nitsche)、どれも知りませんでした。拡張ラグランジュが最もオーバーラップ(食い込み)が小さいものの計算コストが高いそうです。オーバーラップを完全にはゼロにするには非常に細かいメッシュが必要で、現実的なメッシュでは 0.01–0.1 mm 程度の食い込みが残ると報告されていますが、それでも完全には抑えきれなかったとのこと。扱うスケールが全く異なります。