背景・研究目的
土石流は破壊力、高速度、長距離流下を特徴とし、重大な災害をもたらす。従来の観測手法(水圧センサー、ビデオカメラ、ステージセンサー、地震計など)では、土石流の急速な時空間変化を十分に捉えられなかった。
近年、自動車用LiDAR技術の進歩により、4D-LiDAR(3次元+時間)観測が可能となった。スイスのIllgrabenなどで先行研究があるが、主に砂防堰堤間での観測に限られており、自然河道での流動特性は未解明であった。
研究目的:
自然河道を流下する土石流サージの4次元形態と流動性の解明
流動表面の形態分析による流動状態(巨礫の混入、層流・乱流状態)評価の適用可能性の検討
土石流停止段階における動態の解明
調査地
場所: 日本中部の大谷崩れ地すべり跡地、一ノ沢流域
標高: 1205〜1905 m
流域面積: 0.3 km²、全流路長1000 m
年間降水量: 約3400 mm
土石流発生頻度: 年平均5回(2016〜2023年)
地質: 中新世の砂岩と破砕された頁岩の互層
観測機器・手法
4D-LiDARシステム
土石流が到達すると自動的に観測が開始され、0.1秒間隔で連続的に3次元データを記録するシステム
LiDARセンサー: Livox Horizon (Livox Corp.製)
設置地点: 上流地点(Site U)と下流地点(Site D)の2箇所
設置時期: 2023年5月
起動システム: ワイヤーセンサー + プログラマブルリレー(Omron ZEN)
制御: オンボードコンピューター(Raspberry Pi)
電源: バッテリー + ソーラーパネル + チャージコントローラー
記録時間: 土石流到達後最低2日間の連続観測
データ保存間隔: 1時間ごと
点群密度: 0.0375 pts. cm⁻²
ビデオカメラ
機種: Sony HDR-CX470
レームレート: 60 fps
解像度: 1920×1080ピクセル
設置: Site UとSite Dの両地点
用途: LiDARデータの検証、粒径測定、流動状態の判別
UAV測量
機種: DJI Phantom 4 RTK
飛行高度: 地上50〜100 m
点群間隔: 0.02〜0.10 m
DEMグリッドサイズ: 0.1 m
ソフトウェア: Agisoft Metashape(SfM解析)
GNSS: Hemisphere A52、R320
データ解析
ソフトウェア: CloudCompare (version 2.13)、QGIS (version 3.16)
分析対象: 0.1秒間の点群データから縦断・横断図、DEM作成
分析範囲: Site D: 2.0 m×2.0 m、Site U: 1.5 m×1.5 m
表面形態分析
異なるグリッドサイズのDEMから以下を算出:
勾配: Horn (1981)の式を使用
粗度: 3×3グリッド内の最大標高差(Wilson et al., 2007)
統計値: 平均値と標準偏差
結果
観測された土石流イベント
2023年8月3日の土石流
降雨: 総雨量66 mm、最大10分間雨量11 mm(66 mm/h相当)
観測地点: Site Uのみ(下流まで到達せず)
サージ数: 8回(16:37〜16:50)、うち6回をLiDARで捕捉
流動深: 約0.5〜2 mで急激に変動
流動タイプ: 全てのサージで部分飽和流の後に完全飽和流が続いた
河床変動: 16:38に堆積、16:40と16:43に侵食を確認
2023年8月14日の土石流
降雨: 総雨量242 mm、最大10分間雨量11 mm(66 mm/h相当)
Site U: 21:00〜21:07に2回、21:30〜21:45に8回のサージ、その後2 m以上の侵食
Site D: 21:41に明確なサージと堆積を検出
UAVデータ: 上流の発生域で3 m以上の侵食を確認
Site U周辺: 上流・下流約100 mにわたり3 m以上の侵食
Site D周辺: 上流30 m〜下流100 mにわたり3 m以上の堆積
流動形態
縦断・横断形状
8月3日、Site U、16:39の最長サージ:
先端部(1〜2秒): 横断面が凸型、縦断面は土石流ローブ状、部分飽和流
後続部(3〜5秒): 横断・縦断とも滑らかなプロファイル
凸型の出現: 6回のサージ中3回で確認
凸型から滑らかへの変化: 流側への堆積と関連
8月14日、Site D:
凸型の横断面は観測されず
最大サージの先端部でスプラッシュを確認
完全飽和流または高濃度流が卓越
表面形態の定量分析
勾配の平均値
先端・中部: グリッドサイズ0.06 mまで減少傾向、以降安定
後部: グリッドサイズに関わらずほぼ一定、先端・中部よりやや小さい
ビデオカメラから得た平均粒径(0.15〜0.30 m)と標準偏差の収束値がほぼ一致(後部を除く)
粗度の平均値: 全区間でグリッドサイズに比例して増加
粗度の標準偏差: 先端・中部: 全体的に後部より小さい値
グリッドサイズ<0.10 m: 中部>後部>先端
グリッドサイズ>0.10 m: 後部で増加傾向、先端・中部は増加せず
粒径と形態指標の相関
積分値と粒径: p=0.06(有意ではないが傾向あり)
積分値/最大グリッドサイズと粒径: p=0.02(有意な相関)
グリッドサイズ0.10 mの標準偏差と粒径: 相関なし(p>0.10)
堆積過程
8月3日、Site U、16:38:
縦断方向約12 mにわたり堆積
逆勾配を形成し、10秒間でバックステッピング
約1 mの堆積高
先端部が土石流到達前の縦断プロファイルとほぼ平行
8月14日、Site D、21:41:
縦断方向約8 mにわたり堆積
逆勾配を形成し、20秒間でバックステッピング
堆積先端部が到達前のプロファイルとほぼ平行、後部で逆勾配が顕著
堆積速度: Site Uでは縦断方向に一定、Site Dでは4〜8秒後に大量堆積、その後減少
考察
流動特性
横断面形状の違い
部分飽和流の凸型形状: 河岸との摩擦影響が少ない中央部での選択的流動が原因
完全飽和流での凸型の不在: Site Dでスプラッシュのみ観測
内部力の違い: 部分飽和流は摩擦力が支配的(Oya et al., 2024)、凸型形成には摩擦力の優位性が必要
表面形態指標の解釈
勾配・粗度の標準偏差が後部で高い理由: 飽和流の乱流による表面擾乱ビデオ画像との比較: 先端部は巨礫で覆われた層流、後部は泥水主体の乱流
粒径の影響: 部分飽和流で巨礫に完全に覆われている場合、粒径も勾配の標準偏差に影響
点群密度の制約: 0.0375 pts. cm⁻²は不十分、Wang et al. (2013)は直径>63 mmの巨礫測定に1 pts. cm⁻²が必要と報告
0.1秒間隔での巨礫移動: ビデオ画像から求めた粒径との相関が低くなった原因
グリッドサイズの影響
小さいグリッドサイズ: 先端・中部・後部の違いが不明瞭
乱流の捕捉: 十分大きいグリッドサイズが必要
粒径分析: グリッドサイズが粒径より大幅に大きいと個々の粒子の影響が不明瞭
結論: 研究対象の特性に応じた適切なグリッドサイズの選択が必要
イベント特性
流下距離の違い
8月3日: 下流Site Dに到達せず、短い降雨(2.3時間)、部分飽和流が卓越
8月14日: 下流まで到達、長い降雨、完全飽和流が卓越
流動性の違い: 部分飽和流は間隙が完全に流体で満たされていないため、粒子間および流れと河道間の摩擦が増加し、流動性が低い(Major, 1997, 2000; Major and Iverson, 1999)
8月14日の高い流動性: 上流での2 m以上の侵食により大量の土砂供給、河道勾配の減少に伴う流動性低下を補完
堆積特性
逆勾配地形の形成: 堆積先端部が元の河床に対して逆勾配を形成
バックステッピング: 逆勾配が後続流の流動性を低下させ、河道での土砂の後方充填をもたらす
堆積速度の違い: 土石流の内部力の違いを反映、今後の物理メカニズム議論に活用可能
結論と今後の課題
成果
4D-LiDAR観測により以下が明らかになった:
流動高の空間的変化は土石流表面形態より河床形態に影響される
完全飽和流と部分飽和流で縦断・横断形状、表面形態、堆積特性が異なる
表面形態(勾配・粗度の標準偏差)から乱流状態や粒径の評価が可能
堆積先端部の逆勾配地形が後続流の流動性を低下させ、バックステッピングを引き起こす
限界と課題
時間解像度: 0.1秒間隔では急速な変化を見逃す可能性
点群密度: 0.0375 pts. cm⁻²では粒径分布評価の精度に限界
補完データの必要性: 地盤振動計、地震計、光ファイバーなどとの統合が望ましい
高密度・短間隔データの必要性: より詳細な粒径分布と表面形態の解明に必要
応用可能性
警報システムでの土石流検知
河川管理における河床レベル監視
災害軽減への貢献
ラズパイでも消費電力はそこそこありますし、LiDARを連続で動かして、となるとかなりの電力が必要でしょう。ソーラーパネルとバッテリーは大きなものになりそうです。林の中では難しそうです。2日毎にバッテリー交換という計画も現実的ないでしょうから、連続観測を実施したい場合は商用電源を引くしかないでしょうか。