AI要約
背景・目的
地震波形データのノイズクロスコレレーション関数(Noise Cross-correlation Functions; NCF)は、地殻の速度構造や監視、地盤運動解析などに広く使われているが、データ品質のばらつきやノイズの影響により、単純な平均(Linear stacking)では信号品質の劣化が課題となる。本研究は、8種のNCFスタッキング手法の性能を評価し、最適な方法を用途別にガイドする。評価したスタッキング手法(8種)
Linear stacking(算術平均)
Robust stacking(ロバスト加重平均)
Selective stacking(選抜平均)
Cluster stacking(クラスタ平均、独自新手法)
Phase-Weighted stacking(PWS; 位相加重平均)
Time–frequency Phase-Weighted stacking(tf-PWS)
Nth-root stacking(n乗根的非線形平均)
Adaptive Covariance Filter stacking(ACF)Linear stacking(算術平均)
すべてのNCFを単純な加算・算術平均として重み1で合成する、最も基本的な手法。すべてのデータが等しく扱われるため、外れ値やノイズの影響を受けやすいが計算は高速。Robust stacking(ロバスト加重平均)
Pavlis & Vernon (2010)による反復的加重平均法で、リファレンススタックと各NCFの類似度・残差により重み付け。類似度が低いNCFは重みが低くなり、外れ値の影響を抑制する。重みはL1ノルム(内積)とL2ノルム(残差)の両方を用いて定義し、収束まで繰り返すSelective stacking(選抜平均)
Pearson相関係数などにより「良質なNCF」のみを選抜して平均する手法。設定したしきい値(例:相関係数0.7や0.8)以上のみ重み1、それ未満は重み0として排除することで、質の悪いデータの影響を除去する。基準波形は線形スタックなどを使用可能Cluster stacking(クラスタ平均)
機械学習のクラスタリング(k-means法など)でNCFを類似したグループに分類し、クラスタ中心(代表波形)同士を振幅比などで加重平均する手法。2クラスタの場合、代表中心の振幅比で重みをつけ、基準値を超える場合は両方加重、それ以外は高振幅側のみ採用する。NCFのパターンや特徴に応じて重みづけ可能な新手法Phase-Weighted stacking(PWS; 位相加重平均)
Schimmel & Paulssen (1997)の手法で、各サンプルごとに瞬時位相のコヒーレンス(cosine/sineの平均)で重み付けする。コヒーレンスが高いサンプルは強調される非線形スタック。「harshness」パラメータ(本研究は2)で重みの急峻性を調整。外れ値や波形ノイズに強いTime–frequency Phase-Weighted stacking(tf-PWS)
PWSの時間・周波数拡張版。Stockwell変換(S-Transform)やDOST(Discrete Orthogonal S-Transform)によりNCFを時系列かつ周波数ごとに分解し、両方で位相コヒーレンスによる重み付けを行う。より短周期・非定常なノイズ成分に対応。パラメータ設定により計算時間も異なるNth-root stacking(n乗根的非線形平均)
各NCFの絶対値のn乗根をとって合成し、最後に加算結果のn乗に戻す方法。振幅の高い外れ値の影響を抑えつつ信号のコヒーレンスを強調できる。nは根の次数(本研究では通常2乗根)。配列地震学等で利用される非線形フィルタ。Adaptive Covariance Filter stacking(ACF)
Nakata et al. (2015)による手法。各NCFに対してスペクトル成分の共分散フィルター(適応型偏極化フィルター)を適用し、非コヒーレントなノイズ成分を抑制。その後、線形平均する。ノイズと信号の分離に特化し、地震探査や環境ノイズデータに有効。計算負荷は比較的大きめデータ・解析対象
米国カスカディア地震観測網(陸・海底両方、複数ネットワーク)
騒音波形をRaw(未処理)とOne-bit(1ビット正規化)で比較
各手法について6つの評価指標:SNR, 位相分散, 収束速度, 時間変化, 振幅減衰, 計算時間主な結果・知見
原則としてどの方法でも主要な到達波(ballistic/first arrival)は抽出できるが、位相・振幅の保存特性は大きく異なる。
Raw NCFs:Robust stackingが最適(全用途で推奨)
One-bit NCFs:PWSとNth-root stackingを除く全てが実用的
Tomography(速度構造):Linear, Robust, Selective, Cluster, tf-PWS, ACFが有効
Monitoring(地殻変動監視):Linear, Robust, Selective推奨
振幅関連(減衰・地盤運動):Linear, Robust, Selective, Clusterが良い
PWS法はSNRは高いが位相・振幅保存では不安定
Nth-root法はSNRやノイズ耐性は良いが位相情報が劣化する場合あり
Selective/Cluster stacking、ACFは用途によって有効
Robust stackingは全体的にバランスが良い
tf-PWSは計算コストが大きい
距離減衰や一部の目的ではLinear, Robust, Selective, Clusterが安定実装・応用
PythonパッケージStackMasterをオープンソース公開
時系列データの一般的なスタッキングにも利用可能
線形、あるいはRobust、Selectiveのような単純な方法が多くの用途に適用可といった結論が 面白い点です。NCFにピークが出てこないときは前処理の工夫と共にスタッキング手法の工夫が必要ということでしょうか。
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