HEC-RAS の1次元河床変動計算が、河川砂防技術基準に適合するかの確認です。
調査編 第6章に該当するのですが、恥ずかしながら詳細を追ったことがなかったので、この機会に頭に入れました。
河川砂防技術基準 調査編(平成 26 年 4 月)第 6 章 河床変動、河床材料変化及び土砂流送の解析
1.1 位置付けと目的
沖積河川を対象
沖積平野を形成する河川という意味でしょう。直轄区間を想定されているのでしょうね。そのため、山地河川は対象外と読めます。準じて使用といったところでしょうか。
1.3 解析レベル、第2節 目的に応じた解析レベルの設定
1)河床高の解析レベル:1 次元[1DB]、2 次元[2DB]
平均河床高:[1DB]
局所洗掘深の予測、河床高の平面分布:[2DB]
2)粒径の解析レベル:一様粒径[U]、混合粒径[M]
対象区間の全域で材料の粒径範囲が同一→一様性が高い
粒度分布の淘汰がよく、粒径範囲が狭い範囲に集中している→均一性が高い
淘汰が悪く、広い粒径範囲にわたって偏りない粒度分布→均一性が低い
一様性と均一性が共に高い場合:[U]
それ以外:[M]
3)流砂の解析レベル:掃流砂[BL]、掃流砂と浮遊砂[BSL]
礫:[BL]
砂又は
砂礫:[BSL]
4)流れ場の解析レベル:1次元[1DF]、準2次元[2DF’]、2次元[2DF]、2次元(2次流付加)[2DF+]、準3次元[3DF’]、3次元[3DF]
河床高の解析レベルと対応
[1DB]:単断面[1DF]
と複断面[2DF’]
[2DB]:[2DF]~[3DF]
1.4 解析の実施手順
1)解析レベルの設定
2)解析法の設定:計算法と各種条件等の設定
3)解析の実施と検証
第3節 計算法の設定
3.2 流れの計算法の設定
<標 準>
[1DF][2DF’][2DF][3DF’]については、第5章河川における洪水流の水理解析の 4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6に基づいて設定することを標準とする。
第5章4.1は縦断におけるエネルギー(energy grade line)の保存式です。4.3以降はこれをベースにしています。先日組んだ「現場のための水理学」やHEC-RASも同じ考え方です。単純なのでこの分野では共通なのでしょう(厳密には、基準では運動エネルギーの係数1/2が示されていません。導出が異なるのでしょうか?)。
3.3 河床形状の計算法の設定
河床形状zBは流砂の連続方程式により算定する。
種別【1B】【2B】【1BS】【2BS】の流砂の連続方程式は式(6-3-1)~(6-3-4)を標準とする。
掃流式(6-3-1)は「現場のための水理学」式5.3と同一。HEC-RASも同一です。6-3-3は6-3-1に浮遊砂を足しています(後述の代替え案を使うことで、結局6-3-1式と等価になります)。混合粒径に適用する場合のパラメータは3.5~3.7で示す計算法によるとのこと。
3.4 粒度分布の計算法の設定
交換層の枠組みを用いるのを標準。
粒径範囲が広い河床材料、2 峰性の粒度分布を有する河床材料、及び石礫で構成される河床材料
等への適用性(各種の流砂量式を含む)も適宜参考として検討が重要。
河床の各粒径階の含有率 fbi は、各粒径階の連続方程式により算定する。種別【1fB】【2fB】【1fBS】【2fBS】のfi連続方程式は式(6-3-5)~(6-3-8)を標準とする。
これも混合粒径、浮遊砂に適用する場合は3.5.2、3.7で示す計算法によるとのこと。
HEC-RAS の hydraulic reference manual では、ここで初めて日本人の名前を目にしました。基準でも基本的考え方の資料1)として紹介されている文献です。先駆的研究だったのでしょう。文献内で式(6-3-5)が示されています。
この手法は、最もシンプルな Active layer Mixing Method として実装されています(アーマリング因子がこの手法には含まれていないため、利用に注意とのこと)。
3.5 掃流砂の計算法の設定
3.5.1 一様粒径の掃流砂
(1) 一次元解析の掃流砂量式
例示として[BABL]の掃流砂式が挙げられています。式の設定は「決め」ではなく、検証・調整項目の一つと位置付けられています。
3.5.2 混合粒径の掃流砂
交換層
における粒径階 diの含有率 fbiを乗じた式(6-3-21)を用いるのを標準とする。
qBi=fBif(di,τ,τci,ρ,σ,g,etc )
考え方として示されており、○○式を使用といったような規定はありません。
hydraulic reference manual 12-47式、12-54式でも同様の表現が使われています。
3.7 土砂濃度分布の計算法の設定
土砂濃度分布 C は浮遊土砂の移流拡散方程式により算定する。
これは驚きました。今まで見たソースでは、このような計算はなされていません。と思ったら、次の例示中に代替え案が用意されていました。
河床縦断形状の長期変化等の土砂濃度分布の非平衡性が無視できる事
象を対象とした場合には、土砂濃度分布 C を式(6-3-35)により計算するのに換えて式(6-3-42)により算定し、これを式(6-3-3)、(6-3-7)に代入して河床高及び粒度分布を計算す
ることができる。
なるほど。濃度は使わなくてもOKです。ほとんどのソフトが移流拡散を解いていないのではないでしょうか?
結局、これを使うことで「3.3 河床形状の計算法の設定 」の式6-3-1と同じ形になります。
HEC-RASの場合、「3.5.2」の段階で掃流砂 or 掃流砂量+浮遊砂量を扱える式を選択できるようになっています(量でなく、すべて濃度として扱う式もあります)。「3.3 河床形状の計算法の設定 」の段階で両者を合わせるのではなく、その代入前に合わせた量を求めておくイメージでしょう。
第5節 解析の実施と検証・調整
5.1 解析の実施
流れ、流砂、河床状況の計算は、時間項について逐次数値積分することによって行い、解を得ることを標準とする。
その際、流れに対して河床の時間的変化は一般に遅いため、流れを解く際には各時間ステッ
プ内での河床の時間的変化は無視する「準定常」の条件で計算を行う。
Quasi-unstedy のことです。疑似非定常と訳していましたが、これからは「準定常」を使いましょうか(「準定常」は河川屋さん以外には通じないでしょう)。
5.2 解析の検証・調整
調整は、粗度係数の設定、交換層厚の設定(3.4)、各種流砂量式の設定(3.5、3.6、3.7)、及
び初期条件・境界条件等の設定(第 4 節)が対象となる。
流砂式の補正(パラメータの補正等)も必要に応じて調整に含めてよい。
これは自由度が高いですね。
以上、再現結果で精度を確保できるなら、ある程度自由に計算式等を選択しても良いといった内容でした。性能重視、技術者の力量を問う、といったところでしょうか。
HEC-RAS は問題なく基準に適合していることが分かりました。日本人の提案式が採用されていませんのでお客様の反応が気になるところですが、基準上は問題ありません(前に聞いたガラパゴスとはこのことだったのでしょうか?)。
国内で流行っていない理由は、技術的内容とは別のところにあるのでしょう。