2014年1月4日土曜日

崩壊の理由

飯田智之「技術者に必要な斜面崩壊の知識」より
斜面崩壊は全国各地で毎年のように発生している。しかし、どうして“その場所”で“そのとき”に崩壊したのかを説明することは容易でない。同様の斜面の中で、なぜその斜面だけが崩壊したのか、また、これまで崩壊せず、なぜそのときに崩壊したのか、説得力のある説明が困難な場合が多いからである。その理由のひとつとして、崩壊斜面と非崩壊斜面の間に、もともと決定的な差がないことが挙げられる。自然斜面は過去に何度も豪雨や地震の試練を受けているため、崩壊しやすい斜面は既になくなり、少々の豪雨や地震では崩れにくい斜面だけが残っている。すなわち、自然斜面の崩壊には過去の崩壊履歴が大きく影響しており、崩壊の繰り返しで自ら地盤条件を変えることにより、斜面が崩れにくくなると一種のフィードバック作用が働いている。
非常に共感できる内容です。


もう一冊読んでいる本も、「どこが崩れるのか」いうサブテーマがついています。
千木良雅弘「深層崩壊 どこが崩れるのか」

先の本と同じようなテーマですが、この本は素因のみの研究紹介がメインとなっているようです。
2章では、深層崩壊が発生した斜面に対し、崩壊前のLPデータを利用し、その地形の特徴(小崖)を抽出されています。が、非崩壊地には触れられていません。そのため、熱意を感じる文章の割には、“説得力のある説明”にはなっていませんでした(地質屋さんでこういった文章を書かれる方が多くいらっしゃいますよね)。
3章でも、重力変形斜面を多く抽出されていますが、台風12号で、なぜそこが崩れなかったかの説明はありません。ま、研究の根底にあるのが定性(p213)ということと、以下のスタンス(P178)なので、仕方ないですね。
崩壊の危険性のある地層が分かったとして、どこが崩壊する危険性が高いのかを厳密に議論するには、いろいろな要因と理屈を考える必要がある。弱層のせん断強度、事前の降雨、地層の傾斜、斜面の下部切断の有無とその影響、それに地震動自体も問題になる。私に言わせれば、これらを明快にすべて説明することができるとしても、それは私の仕事ではないし、その結果をあまり信頼する気にもならない。
確かに、それは技術者の仕事ですね。

崩壊が発生した場合、お客様から「なぜそこが崩れたのかを説明しろ!」と必ず言われます。技術者はその原因を調査して、報告書を作成するわけですが、実際は多くの場合、分からないことが多く残ります(そのため、1冊目の抽出箇所に共感できるのでしょう)。しかし、仮定や推定を交えつつ、答え(素因・誘因と対策方針)を期限内に提出します。通常は数か月、道路災の場合は1日~1週間程度が多いですね。
一方、数年かけて定性的な素因を研究していただくことは、技術者にとっても重要です。それが使い勝手の良いものであれば、「偉い先生のお墨付き」という利用法も生まれます。


社会や施設管理者、研究者が求める崩壊の理由は様々なようです。この2冊では、その違いが出ていると思います。

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