2019年7月30日火曜日

地すべりと微動

地すべりと微動に関する文献を読んでいました。

集めた中で最も古い文献が1973年です。意外と昔から研究されてきたようですね。港湾基準に取り込まれてから流行りだしたのかな?と思っていましたが、知りませんでした。

(気になった)主な内容は、以下の通りです。
・地すべりブロック内では、3~4Hz付近にて増幅率の増す報告が複数あり。
・地すべりブロック外でも同様の固有振動数を持つが、増幅はやや小さい。
・2~5Hzの particle motion では、表層のクラック直交方向の揺れが大きく見える。
・地質毎に卓越周波数が異なる。
 シラス:2Hz、花崗岩:6~10Hz、四万十層群:15~20Hz。
・表面波探査のS波速度と1/4波長則にて、地すべり深度を推定。誤差15%程度。

残念ながら報告例が少なく、微動が地すべりに十分活用されてきたとは言えないようです。盛土では動的解析を入れて微動を再現している例もありましたが、地すべりではまだまだ。平地で測る方が楽ですし、興味を持たれる方も少ないのでしょう。

以下、読んだ論文の概要です。
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常時微動と地すべり地への応用
地すべり 1973 年 9 巻 4 号 p. 1-8
・N-S、E-W方向とも大体同じような傾向。卓越周期ははっきりしない。→下層と上層の速度比はあまり大きくないか、あるいは表層の粘性係数が大きいか、また両者が一緒に原因しているかどちらかである。
・常時微動の観測をふつう平地でおこなうと、100mぐらいはなれたところで大きく変化しない。ところが、地すべり地をふくめて山地になると測点間の関係がかなりくずれる。このことはボーリング結果をみても同じであるから、やはり地下構造の変化を反映しているものとみられる

和田ほか
地すべり地の Crack 群の雑微動に対する影響
地震 1973 年 26 巻 4 号 p. 316-325
・亀ノ瀬地すべり
・2~5Hzのピーク:地すべりCrackに直交。crackが振動特性に強く影響。
・低周波領域(0.5~0.7Hz):地すべり地全域で一様な振動特性。深部構造を表している。
・10Hzのピーク:断続的な振幅の強弱。人工ノイズ
・地すべり地のような地盤構造の複雑な地域では、単一の卓越周期のみに注目し、 垂直方向のみの地盤構造と対比するのは危険。
・地盤構造のディメンジョンに相当する個々の周波数領域についてそれぞれ考察することが必要
・地域下では潜在している crack 群 の発見と地すべり運動との関連性等を提供する可能性あり。


長野県鬼無里村地すべり地における常時微動と表層の振動特性
地すべり 1975 年 12 巻 1 号 p. 34-42
・粘性係数が大きいほど(Q値が小さいほど)減衰大
・地すべり崩落地に近いところでは粘性係数ξ=5×106~107CGS程度(Q値1~2程度)
・直接地すべりの影響をうけないところではξ=5×105CGS程度(Q値20程度)
・地すべりの発生からある程度時間が経過すると、地盤の弾性的性質は元の安定した状態に復元するものと思われる。表層の粘性係数は小さく(Q値は大きく)なり、スペクトルからみて明瞭卓越周期がみとめられる。

泉谷ほか
奈良尾地すべり地における常時微動特性
地すべり 1978 年 15 巻 3 号 p. 17-22
・仮定1:常時微動は基盤からのSH波垂直入射に対する地盤の応答である.
・仮定2:常時微動の源は時間的、 空間的にランダムに分布しており、 基盤より入射する波のy、 z成分のスペクトルは相等しい.
・仮定3:地すべり地のクラック群による土塊の異方性に着目して常時微動記録を解析することが、地すべりの状態を知る一つの手段となり得る。
・地表層上部を異方性体で近似した地盤モデル
・クラック群の到達している平均的な深さと、 クラックの混み具合とを推定できる解析手法を見出した.

泉谷ほか
常時微動測定による地すべり地盤調査の一手法
土木学会論文報告集 1981 年 309 号 p. 159-162
・「奈良尾地すべり地における常時微動特性」の改善
・常時微動によって推定された地下構造と、ボーリング調査等が対応するかを調べるにとどまっている.


常時微動特性から推定される味大豆地すべりの発生機構
地すべり 1981 年 18 巻 1 号 p. 15-25_1
・これまで、地すべり付近では振幅の大きくなる振動数はあらわれないで、振動数とともに振幅が小さくなるか、白色雑音のように振動数に関係せず振幅がほぼ一定になるようなスペクトルを示すことが多い。
・地すべり地下方では3~5Hz付近の振動数でスペクトル振幅が卓越する傾向を示す。
・味大豆地すべりも同傾向。
・地すべり地のように地形や地下構造が複雑なところでは、水平・鉛直成分の組み合わせによる楕円軌跡は水平軸に対して傾斜していることが多い。
・レイリー型の表面波であるなら、傾斜角は層構造の傾斜とみることができる。
・振動数ごとに傾斜角が異なっているときは、高振動数においてはごく地表の構造の傾斜に対応し、低振動数の場合は深い構造の傾斜に対応する。
・常時微動のスペクトルから地下構造を推定する場合、成層構造の中に低速度層を仮定してみると都合がよい。
・振動方向の分布にあずかる振動数と地下構造とを対比させると、低速度層より上部にある比較的硬い層が地すべり運動に寄与していることが分った。

川邉ほか
地すべりに及ぼす地震動の影響
地すべり 1983 年 36 巻 2 号 p. 5-16
・静岡県由比地すべり地において地震および常時微動の観測を行った。
・深度別二組の地震計の記録からスペクトル比を求め、 それをもとに重複反射理論を使って地表層の密度・剛性率・Q値の諸定数を推定した。
・固有周期で顕著なものはA点0.28秒(3.6Hz、増幅率6~10倍)、B点0.10秒 (10Hz、増幅率は5倍程度)
・0.1秒付近の振幅の増幅には深さ10m程度までの表層が関与。 0.3秒付近の振幅の増幅には、より深い幅が関与しているようである。
・推定された定数と重複反射理論を用いて、 基盤から地表層にある地震波が入射した場合に地表層内に発生する加速度 ・勢断応力を計算し、 土質試験より得 られたせん断強度と比較した。
・A点における最大加速度は、地表で最大で約3倍に増幅。最大勢断応力は境界面で最大約2.5kg/cm2となった。
・B点の各深さにおける最大せん断応力と、土質試験によるそれぞれの深さでの一面せん断強度を比較すると、 入力地震波の最大加速度が477ga1以上で表層内に破壊面
ができる。
・求められた加速度・勢断応力を由比の4個所の地すべり斜面の安全解析に導入した結果、 安全率が1になるのは傾斜約25度の斜面で50~110gal、約15度では100~220ga1のときであった。

秀島ほか
地すべり斜面における常時微動観測と一考察
開発土木研究所月報第457号 1991
・地すべり地域内の各成分の増幅は、地すべり域外のものと比べていくぶん大きい
・上下動成分は、地すべり域内および域外とも水乎2成分と比ぺて増幅は小さい
・地すぺり域内外でも、スペクトルの卓越振動数に相違はほとんど認められない。洪積層(第二種地盤)の基盤の振動特性そのものが強く反映された結果と考えられる。
・ハンドパスフィルクーは、既応の解析例をもとに2-5Hz。N-S方向(すべり頂部のクラックに直交する方向)が卓越した振動。

川邉
斜面表層の振動特性と不安定化
日本地すべり学会誌 2005年 42 巻 2 号 112-114
・地質毎に卓越した周波数
 シラス:2Hz
 花崗岩:6~10Hz
 四万十層群:15~20Hz
・表層部の固有周期、地質や土質、層厚などによって決定される地盤の振動特性を反映。
・下層から入射する地震動の卓越周期との関係から、表層部での安定性をある程度説明することが可能。

森ほか
微小地震観測による地すべり土塊の三次元形状と地震応答特性の評価
士木学会論文集Al(構造・地震工学)、 Vol.68、 No. 4(地震工学論文集第31-b巻)、 1_395-1_406、2012
・当地すべり地の微動は振幅が低く、電気ノイズに埋もれてしまうことが多い.微動探査は有効に用いることができない.
・微小地震観測は、地すべり地における卓越振動数の評価に有効。
・地すべりブロックの外側の安定した地山を基準にしたときのブロック内側の移動土塊部分の水平動スペクトル比(H/H比)は地震応答特性の評価には有効である.
・表面波探査等によるS波速度と合わせて地すべり深度を推定可能。誤差15%程度(H=Vs/4f、f=4H/Vs)

芝崎ほか
複数深度での地震動観測結果に基づく地すべり土塊の固有周期
日本地すべり学会誌 2016 年 53 巻 6 号 p. 227-234
・譲原地すべりおよび由比地すべりに設置された3深度(想定すべり面よりも下位の基盤岩層、想定すべり面の直上部および地表付近)の地震動観測を行い、高速フーリエ変換 によりスペクトルの増幅率を求め、地すべり土塊の固有周期について検討を行った。
・すべり面直上部付近の最大加速度は基盤岩層の最大加速度の1.0~1.9倍の値を、地表付近のそれは1.1~3.6倍の値を示した。
・いずれの地すべりにおいても、周期が概ね1~2秒を超える加速度フーリエ振幅スペクトルは基盤岩層と想定すべり面直上部、地表付近でほぼ同じ値を示した。一方、概ね1~2秒より短い周期では、基盤岩層に比べて想定すべり面より直上部および地表付近で大きな値を示す特徴が見られた。
・譲原地すべりにおける地すべり土塊の水平方向の固有周期は0.22~0.25秒で上下方向のそれは0.10~0.13秒、由比地すべりでは水平方向が0.37秒で上下方向が0.20~0.22秒と推定された。
・固有周期と加速度フーリエ振幅スペクトルの最大値を示す周期は、譲原地すべりでは異なる値を示した。
・由比地すべりでは、2009年の駿河湾沖地震において、深度40mと深度1mの水平方向の加速度フーリエ振幅スペクトルが最大値を示す周期と固有周期は同じ値を示した。
・由比地すべりで地中変位が発生しなかった原因として加速度が地すべりの変位を生じさせるよりも小さかったことが考えられた。

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