学会HPのチェックをしていると、地盤工学ジャーナルで面白い論文が出ているのを見かけました。
川﨑 元, 西垣 誠, 実用的な不飽和土用三軸圧縮試験装置の開発とそれを用いて測定した不飽和土のせん断強度について, 地盤工学ジャーナル,Vol. 6 (2011) , No. 1
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jgs/6/1/39/_pdf/-char/ja/
内容は2本立て。
1つ目は通常の三軸圧縮試験機を改良することで実務的に不飽和三軸試験が行えることの報告。
2つ目は、締固めたマサ土について、Öberg と Sällfors が提案している(飽和時の試験結果から導く)不飽和時のせん断強度推定値と、上記試験機で得られたサクション一定排水せん断試験結果の比較、盛土安全率への影響度などの議論です。2つ目の結果は概要に以下のように記されています。
1) Öberg と Sällfors が提案している従来の予測法では,本装置で測定したせん断強度よりせん断強度を低めに見積もることになる。そしてその差はサクション変化によるダイレイタンシーのせん断強度への寄与分の差と,湿潤過程におけるサクション 0 の不飽和ケースの粘着力と飽和ケースの粘着力の差で構成されている。
2) 従来の方法で推定したせん断強度と本装置で測定したせん断強度との差の影響は湿潤過程にある盛土の安定解析上,無視できない
面白いですね。つまり、少なくともサクション0の試験をして予測式に使用する必要がありますよ、と。
それで出るなら簡単ですね。試験機については本当に簡単に改良できるのか、プロに聞いてみましょう。
サクションによる安全率の変化について、粘着力の寄与分、φの寄与分を述べられています。あまりに明確な結果であり、面白いですね。斜面では降雨浸透により見かけの粘着力が減少し崩壊が起きると言われますが、その通りなのでしょう。
拘束圧に応じてポアソン比は不変ですが、変形係数は異なります(=せん断剛性が異なります)。では、ダイレイタンシー角はどうなんでしょう?結果は変わっていますね。低拘束圧の方が正のダイレイタンシーが出やすいというのは感覚として納得できますが、深く考えたことはなかったですね。注意すべき点です。
安全率の評価ではGa3dのSSR法が採用されています。ピーク強度とダイレイタンシー寄与分考慮後の強度の2つで分けて計算されています。拘束圧依存性も反映できるよう、モデルを2層としています。この程度の反映は実務でも必須なのでしょう。
前者のケースでは実際に比べて過大な安全率が出ますし、後者のケースでは過小な安全率が得られものと推定されます。降伏後にピーク強度からダイレイタンシー寄与分考慮後の強度(≒残留強度)に落とせば、それらの安全率は中間になると思います。試験結果では緩やかに落ちていますので、私が岩盤を意識して改良したコードは使えませんね。FLACなどひずみに応じてc・φを設定するタイプのひずみ軟化を扱えるコードを用いて計算した方が良いのでしょう。
全般的には実務に対して2段階程度上を行く内容です。
一つは、安定計算では飽和度を無視していること。2次元・3次元、あるいは順解析・逆解析においても、すべり計算において不飽和帯の強度を考慮することはありません。港湾や軟弱粘土では、ほぼ飽和として扱うので問題ありませんが、盛土や地すべりなどでは無視です。つまり、試験値を使ったとしてもそれは飽和の試験結果であり、計算上は不飽和も含めた平均強度として扱っています。不飽和斜面の崩壊も実務ではオーソライズされたものがありませんので、なかなか取り込めないのが現状でしょう。
もうひとつはSSR法の使用です。斜面安定に関する数値計算は土研(トンネルと地すべり)や盛土工指針(浸透流)でオーソライズされた感はありましたが、SSR法はさらに上を行く話でしょう。
いろいろ考えさせられる論文でした。
時間のあるときに出会えてラッキーでしたね。
0 件のコメント:
コメントを投稿