2023年11月26日日曜日

ゼロクロス法

先の論文に出てきたゼロクロス法の説明は以下がわかりやすいと思います。
Determination of surface‐wave phase velocities across USArray from noise and Aki's spectral formulation - Ekström - 2009 - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library

Because the amplitude of the real part of the spectrum depends on both the background noise spectrum and non-linear effects of the data processing, dispersion information cannot readily be deciphered from the detailed shape of the spectrum. The locations of the zero crossings in the spectrum should, however, be insensitive to variations in the spectral power of the background noise, and we choose to use the locations of these zero crossings as the dispersion observables. 

前提として、ランダムに全周囲から表面波が到来する場合、2点間の相互相関係数は第一種0次のベッセル関数J0を介して表現できる(それは円周上の1点と中心点とのそれを円周上の多点で平均した空間自己相関係数(SPAC係数)と一致する)。
J0(ωr/c(ω))=0 の時の角周波数ωがゼロクロス点でわかり、2点間の距離rも既知のため、位相速度 c(ω) が求まる流れです。0の時を選ぶのは上記理由です。

SeisLib

Surface-wave tomography using SeisLib: a Python package for multiscale seismic imaging | Geophysical Journal International | Oxford Academic (oup.com)

以前、passive 手法等をまとめた際に含めていたかな?と思い見返しましたが、入れていませんでした。
https://phreeqc.blogspot.com/2021/05/passive.html

クロスコリレーションのゼロクロッシング位置を用いて観測曲間の分散曲線(位相速度)を取得しています。ゼロクロス法については後日。

文献の対象は米国でしたが、日本でも観測局の長期データを基に速度構造を推定している例をいくつか見たことがあります。ま、日本の場合はもっと細かいデータが公開されていますので、積極的な利用はないでしょう。

物理探査にも使えそうです。


Civita di Bagnoregio

フローレンスとローマの間に、チヴィタという町があります。溶結凝灰岩の崖の上に孤立する町で、世界遺産候補です。観光客からは「死にゆく町」として人気だそうです。

今回の出張で見たかった場所の一つだったのですが、見学が中止になりました。が、それでも個別に見に行かれた地質屋さんがいらっしゃいました。後日、写真を見せてもらうと、香川県の屋島の上に中世の村が作られているような印象でした。

中には、鋼管杭?からアンカーをとって崖を引き留めているような写真もありました。このような対策は日本にもあるそうです。以下の文献には、おおまかな構造が示されています。

(PDF) The dying town of Civita di Bagnoregio and the killer landslide (researchgate.net)

当然ながら、古くから「dying」だった訳で、似たような姿は絵画の題材にもされています。多くはデフォルメされて描かれているようです。いずれにしても、古くから人を惹きつける景観であったことは間違いありません。

対策は観光地としての延命治療のようにも感じますが、住民の方にとっては確かに死活問題です。厳しい土地で工夫しながら長期にわたり歩んでこられた歴史。対策も含め世界遺産候補なのでしょう。

機会があれば、じっくり見てみたいですね。

porousMedia4Foam

porousMedia4Foam: Multi-scale open-source platform for hydro-geochemical simulations with OpenFOAM® - ScienceDirect

reactive transport を扱えるOpenFOAM11 用のソルバーが実装されています。二重空隙モデルを扱える点が特徴でしょうか。反応はPhreeqcRM 利用とのこと。

  • dbsFoam Micro-continuum(Darcy-Brinkman-Stokes):pore-scale, hybrid-scale, continuum-scale, (Soulaine and Tchelepi, 2016).
  • darcyFoam Darcy's law:continuum-scale only.
亀裂が充填されて水みちを塞ぐのか、それとも逆なのかは定性的な計算でも把握可能でしょう。しかし、何年後にどのような状態になるか?というような予測計算、定量的把握にはRTMを用いた計算が有用です。地下貯槽建設や地層処分分野で推奨される計算でしょう。

2023年11月25日土曜日

surface wave inversion


inversion algorithm
  • Local search algorithms, also known as linearized inversion methods, rely on an initial starting model, which is assumed to be close to the true solution. This assumption may or may not be valid and is unverifiable for real data.
  • Global search algorithms rely upon upper and lower limits of each model parameter, which as a whole is often referred to as the parameterization space. Unlike local search methods, global search methods do not require the user to provide a single initial starting model.
これは以前に別のところで聞いたことがあります。表面波から逆計算する際には最小二乗法、アレーから逆算する場合はGAを使用していたのも、よくよく考えると意味はありませんでした。

  • When developing trial inversion parameterizations all high-quality site-specific information (geology, boring logs, etc.) should be used to constrain the layering and develop reasonable parameter limits.
  • When parameterizing Vs, if limited site specific information is available or site specific information does not extend to a sufficient depth, the layering by number (LN) and layering ratio (LR) parameterizations are recommended.
  • At a minimum the lowest misfit model from multiple parameterizations should be reported to quantify the inter-parameterization uncertainty. Furthermore, the inter- and intra-parameterization uncertainty should be reported qualitatively, such as with a plot of 100 lowest misfit Vs profiles for each parameterization, like that in Figure 10c and 11c, and quantitatively, such as with a plot of σln,V s , like that in Figure 10d and 11d, to communicate to the end user the relative (un)certainty of the inversion results.
特別ではないですが、経験的な内容だからか見かけない内容です。
特に最後。分散曲線を再現する1次元速度モデルはたくさんあるということがあまり浸透していません。

地震による地すべり

地震を契機に発生した地すべり。これが落ち着くまでどのくらい期間が必要だったかという発表を聞きました。

地震が発生してから地すべりが加速。一定速度を保った後、ゆっくり停止に至る。その間、3年。測定はSAR。

日本でも地震後に広域を分析し続けたら面白いでしょうね。降雨による判定基準を通常値に戻すタイミングが浮かび上がってくるかもしれません。

2023年11月24日金曜日

地すべりと H/V

H/Vをすべり面深度決定に利用している方がいらっしゃいました。

まずは、H/Vの基本。
中村 (2008) H/V スペクトル比の基本構造

  • 軟弱な表層地盤が堅固な地盤上に堆積している状況下では、水平動の増幅現象が重要。
  • 地表面と基盤の水平動の比R(=Ahs /Ahb:増幅特性)に及ぼす Rayleigh 波の影響を、地表面と基盤の上下動の比E(=Avs /Avb)で見積もり、増幅特性Am を推定。つまり、地表と基盤のそれぞれのH/V スペクトル比の比によって、より確からしい増幅特性を推定。
  • 基盤のH/V スペクトル比が広い周波数範囲で概ね1.0 となる観測事実を考慮すると、結局、表層地盤の増幅特性は、次のように地表だけの測定で推定できることになる。
    Am = R/E ≒ Ahs/Avs
  • F0周辺では SH 波の重複反射による増幅特性を現し、2F0付近ではRayleigh 波によって乱された特性を現す。

H/V の地すべり調査への適用例です。
F. Panzera et al. (2012) Seismic site response of unstable steep slope using noise measurements: the case study of Xemxija Bay area, Malta

  • 断面の60mから100mの範囲で、detritus/BCとBC/GLという2つの界面に関連する二峰性のピークがH/Vに存在。
  • H/Vを計算する方向性に特徴。

V. Pazzi et al. (2016) H/V measurements as an effective tool for the reliable detection of landslide slip surfaces: Case studies of Castagnola (La Spezia, Italy) and Roccalbegna (Grosseto, Italy)

  • f=Vs/(4h)を利用してすべり面深度を推定。
  • fはH/Vからの卓越周波数、VsはS波速度。


つまり、岩盤が崩壊したような基盤とすべり土塊のインピーダンスに明確なコントラストがある場合に H/V を地すべり調査に利用できるということです。地すべり土塊と岩盤の間に速度変化がない場合や、深度とともに速度が徐々に増加する場合、この手法を適用することはできません。これは、地質屋さんが現場を見たらある程度判断できますし、ボーリングを掘れば明らかになります。

深度を決定するには Vs が必要です。単点に加えアレーを加えたら良いのでしょう。が、大雑把な手法なので、やりすぎると矛盾が出るでしょうね。ボーリングで確認した深度に一致するよう Vs を調整し、それが妥当な場合に「適用可」と判断するほうが良いのでしょう。

いずれにしても非常に手軽な補間手法です。積極的に利用したいですね。

欧州の地すべり調査

フローレンスへの出張から帰国しました。
※いらないコロナを連れ帰ってしまったので療養中です(2回目)。

欧州での地すべり調査について学んできたのですが、彼らは SAR を頻繁に使っていました。取り扱う規模が相対的に大きいこと、SAR データが無料のみならず PSInSAR などの結果も無料で公開されていることが大きな要因です。後者についてはEGMSを紹介されました。欧州全体、5年分の結果が web ベースで公開されています。

本邦の現状はというと SAR は地すべり調査に一般的に使用されておらず、提案しても逆に「(いろいろな場所が)動いていたら困るので、余計なことはしたくない(知りたくない)」と言われることがあるとのこと。容易に想像できます。
国土地理院が DInSAR の一部の結果を公表していますが、これもプロから見ると対象個別にチューニングされていない結果なので利用や解釈には注意が必要とのこと。
いずれにしても河川砂防技術基準に地すべり調査として SAR が入るまでは日本で普及することはないでしょうね。ガラパゴス化です。まだまだヒトが追い付いていません。

面白かったのは物理探査。H/Vを地すべり調査に利用している例がありました。考えることは同じですが、もう一歩進んでいました。これらについては、また後日。