2020年3月27日金曜日

安定計算と崩壊確率

災害や崩壊にかかわる危険度として相対値なり確率なりの導入を試みる事例を時折目にします。

斜面安定計算でも確率を扱えます。

安定計算に強くかかわるキーパラメータに c・φ があります。この2軸上で確率密度分布を表現するには多くの試験が必要になります。
円弧すべりを考える場合に1軸+簡易CUを多数実施し、cの1次元分布を把握する。それをカーネル密度分布などで連続関数にしてFs=1.0未満の累積確率を求める。このような手順を踏めば、ある条件下での崩壊確率は得られるでしょう。
港湾分野では他分野よりも対象とする土質が比較的均質で室内試験を多く実施する傾向にあるため、上記のような確率の考え方を導入することは容易です(平成19年版設計事例集でも FORM として触れられていました。最新版では消えましたが)。

これが斜面だと難しい。基本は水も土質も均質ではない条件下で、円弧にならないすべり面形状が前提のため、多数の観測や室内試験が必要となります。この点で難色を示される方が多くいらっしゃるでしょう。仮に、試験結果が多数得られたとしても、基準にない確率の考え方を受け入れてもらうことへの抵抗が予想されます。基準に載っており、簡単で、実績のある手法以外を導入し難い気持ちはある程度理解できます。

多量のN値があれば、その確率密度推定結果をφの分布に変換することは、場合によってはありかもしれません。が、数がないので標準正規分布といった仮定を持ち込むのは、乱暴でしょう(数値実験なら良いのですが)。ちなみに、数値実験では標準正規分布ではなく、対数正規分布が多く使われているようです(∵non negative)。例えば以下の文献。
Man-Yu Wanga et al.(2020) Probabilistic stability analyses of multi-stage soil slopes by bivariate random fields and finite element methods

仮に2次元の確率密度分布が得られたところで、それを扱うにも精度の問題が生じます。安全率では計画安全率の0.1%の不足は認められません。確率密度の積分で、その精度が必要とは思えないのですが、基準などで「確率〇%以上を要求」などと決まってしまえば、安全率同様に0.1%の誤差は許されなくなります。計算時間がかかっても、精度の良い積分方法を選択せざるを得ないでしょう。


確率を論じるにはデータが必要になり、それには費用と時間を要します(リスク発現時の対応費用を考えると、微々たる金額ですが)。
こうなると純粋な技術論ではなくマネージメントの領域になります。その判断を経験に依存する分野では、確率論との併用化を進めることは難しいでしょう。

確率を導入する流れに反対ではありません。が、実務上、クリアすべき問題点は多くあるように感じます。

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