崩壊生産土砂量推定式のパラメータ<i>α </i>値・<i>γ </i>値に及ぼす崩壊深や地質の影響 -2014年8月豪雨で発生した丹波地域と広島地域の土砂災害の事例-
AI要約
1. 背景
斜面崩壊地から生産される土砂は土石流となり、下流域に甚大な災害を引き起こすため、崩壊生産土砂量の早期かつ精度良い推定が求められている。崩壊生産土砂量(V)は、崩壊面積(A)と崩壊深の積で概ね求められ、V=αA^γ の累乗式で近似できることが知られている。これまで、様々な国で崩壊生産土砂量の推定手法が研究され、多くの研究者がα値・γ値を報告してきた。しかし、既存研究にはいくつかの問題点が存在する。本研究は、LP地形データを用いて崩壊深や地質が崩壊生産土砂量推定式のパラメータα値・γ値に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、既存研究のα値・γ値との比較も行う。
- 計測値の不正確さの可能性: 崩壊深や崩壊面積の値が先行研究からの引用であり、計測者の技量や解析精度の粗さによるばらつきがある。
- サンプル偏り: 特定の地域や規模の大きな崩壊地のデータがα値・γ値の計算に影響を与えている可能性がある。
- 地質分類の欠如: 誘因や素因が異なっていても同一のα値・γ値を使用する研究がある一方で、地質によって崩壊の形態や規模が異なることが指摘されており、地質を考慮する必要がある。
2. 手法
本研究では、2014年8月豪雨で土砂災害が発生した兵庫県丹波市と広島県広島市を調査地域とした。崩壊地の抽出と土砂量・崩壊深の計算:
災害前後の1m分解能LP地形データを使用し、ArcGIS Pro2.8を用いて標高値の変化量を計算した。
崩壊地は、斜面勾配が20度以上かつ外縁部に厚さ0.5m以上の侵食が発生した領域を対象とし、空中写真で確認して認定した。
崩壊地ポリゴンごとに、侵食部の面積(Ae)と堆積部の面積(Ad)を計算し、崩壊面積Aは両者を合算した「A = Ad + Ae」で算出。
崩壊生産土砂量Vは、侵食量(Ve)と堆積量(Vd)を差分した「V = Ve - Vd」で求めた。
崩壊深Dは、崩壊地ポリゴン内における侵食部の標高値の変化量の平均値として算出。α値とγ値の計算:
崩壊面積Aと崩壊生産土砂量Vから、累乗式V=αA^γでフィッティングすることにより、地質別にα値とγ値を計算。
対象とした地質は、丹波地域の「丹波帯頁岩砂岩」と「超丹波帯砂岩」、広島地域の「花崗岩類」「流紋岩類」「苅田層泥岩」「玖珂層泥岩」の計6種類。3. 結果
崩壊面積Aと平均崩壊深Dの関係:
崩壊面積Aと平均崩壊深Dは、D=mA^nで近似すると、ばらつきがあるものの、地質に関係なく概ね正の相関がみられた。近似直線の傾きを示すn値は0.03〜0.36の正の範囲にあり、切片を示すm値は0.20〜1.27の範囲であった 。m値とn値の間には決定係数R2値が0.94の強い負の相関が確認された 。地質別の崩壊生産土砂量とα値、γ値:
崩壊面積Aと崩壊生産土砂量Vの関係は、V=αAγで近似すると、全ての地質で決定係数R2値が0.996以上と非常に高く、この式で概ねVを推定できることが示された。傾きを示すγ値は0.94〜1.49の正の範囲にあり、切片を示すα値は0.08〜2.02の範囲であった。地質ごとの特徴として、丹波帯頁岩砂岩と苅田層泥岩はγ値が1.34〜1.49と他の地質よりも大きな傾向が見られた。崩壊数の合計は丹波地域が777箇所、広島地域が381箇所。崩壊面積の中央値は約150〜340m2の範囲にあり、丹波帯頁岩砂岩、超丹波帯砂岩、玖珂層砂岩で大きくな傾向があった。崩壊深の中央値は超丹波帯砂岩が1.6m以上と大きい一方で、他の地質は約1.3〜1.5mの範囲であった。4. 考察
α値とγ値の関係性:
α値とγ値の間には負の相関があることが確認された。
崩壊面積に対する崩壊深の増加割合を示すn値が大きくなると、V=αA^γの傾きに相当するγ値が増大する傾向が見られました。これは、崩壊生産土砂量が崩壊面積と崩壊深の積で表されることと整合する結果であった。α値は極めて小規模な崩壊地の土砂量を意味するため、γ値に比べて地域や地質による差が若干不明瞭になることがある。地質とα値・γ値の関係:
火成岩類(本研究の花崗岩類、流紋岩類、および既存研究の斑れい岩)は、概ねα値が大きく(0.76〜2.02)、γ値が小さい(0.94〜1.06)傾向に分布する。これは、これらの地質が崩壊面積に対する崩壊深の増加割合が小さい崩壊形状の分布特性を持つためと考えられる。堆積岩類は、α値が0.08〜1.90、γ値が0.97〜1.49と広範囲に分布。これは、地質ごとに崩壊形状の分布特性が多様であることに起因すると考えられる。変成岩(既存研究のホルンフェルス、黒雲母片麻岩など)は、α値が小さく(0.03)、γ値がかなり大きい(1.55)という特徴を示した。これは、崩壊面積に対する崩壊深の増加割合が大きい崩壊形状の分布特性を示唆している。既存研究との比較:
Guzzetti et al.(2009)やLarsen et al.(2010)が提案するα値・γ値は、本研究の値と比較して、α値が小さくγ値が大きい傾向にある。ただし、丹波帯頁岩砂岩のように大規模な崩壊地を含む場合、本研究のα値・γ値はこれらの既存研究の値に近くなることがわかった。既存研究のα値・γ値を用いて土砂量を推定した場合、Larsen et al.(2010)の岩盤崩壊の場合を除き、本研究で計測された実際の土砂量よりも過小評価される傾向があった。これは、既存研究のα値が小さいため、本研究の調査対象である中小規模の崩壊地が卓越する状況では、崩壊生産土砂量を過小評価してしまうためと考えられる。一方で、Larsen et al.(2010)の岩盤崩壊のα値・γ値を用いた場合、本研究とは崩壊深の規模が大きく異なるため、土砂量が約2倍に過大評価される結果となった。5. 今後の展望
本研究で扱った地質の種類は限られているものの、今後さらに計測データを増やすことで、α値・γ値を地質ごとにある程度体系的に整理できると考えている。これにより、土砂災害発生時の砂防基本計画などにおいて、崩壊生産土砂量推定式の活用を目指し、地質ごとのα値・γ値のデータを蓄積していくことが期待される。
地質によらず、この形の式を使えそうだという点、地質によって係数が変化する点、大規模か小規模かにより切片αの重要性が変わる点など、V=αA^γ に着目して研究された結果です。降雨、地震によらず式は適用できるが、地域は考慮しないとダメ。というか、不確定な内容を地域(係数)に押し込んでいるのかもしれません。
データを蓄積しないと予測には使えませんし、そもそも正確なポリゴン、崩壊面の推定、土砂量の算出がないと正しい係数を得られません。手間がかかる研究です。
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