2025年11月13日木曜日

mce=off

数か月前から splash screen で再起動がかかる Ubuntu。

GRUB_CMDLINE_LINUX_DEFAULT に mce=off を追記したら、すんなり起動しました。

何だろう?

2025年11月6日木曜日

薄片画像 + ViT

PoreViT: Automated pore typing in carbonate rocks using vision transformers and neighborhood features - ScienceDirect

AI要約 

背景

  • 炭酸塩岩の孔隙(ポア)をその生成過程や物理的特性に基づいて分類することは、炭酸塩岩の微細構造と物理特性の関係を理解する上で重要である。
  • 従来の孔隙分類は主に手作業で行われ、非効率で主観的、かつ大規模解析には不向きである。
  • 既存の自動化手法は、孔のサイズや形状といった単純な特徴に依存しており、遺伝的クラス(生成過程に基づく分類)を正確に識別できていない。
  • CNN(畳み込みニューラルネットワーク)は画像分類に強みがあるが、局所的特徴の抽出に優れる一方で、画像全体のグローバルな文脈情報を捉えるのが苦手であるため、複雑な孔隙タイプの分類には限界がある。
  • そこで、Vision Transformer(ViT)を用い、局所的特徴とグローバルな文脈情報を融合し、孔隙の近隣情報(隣接する孔の情報)も活用することで分類精度の向上を目指す。

手法

  • PoreViTモデルを提案。これはViTをベースにしたモデルで、薄片画像中のマクロ孔隙をLucia分類(interparticle, touching vug, separate vug)に分類する。
  • モデルの特徴は、ViTの特徴量にGlobal Token Addition(GTA)層を加え、CNNから抽出した空間的特徴と融合するFeature Fusionブロックを持つ点。
  • 入力データは、単一の孔だけでなく、その周囲の孔やテクスチャ情報を含む近隣情報を含めてモデルに与えることで、局所的な孔系のトポロジーを認識可能にしている。
  • データセットは25枚の高解像度薄片スキャンから4115のラベルを取得し、これを用いてモデルを訓練・評価。
  • 従来のCNNモデル(DenseNet121)と比較し、精度(precision)と再現率(recall)で約4%の絶対的改善を達成。

結果

  • テストセットでPoreViTは正確度93.6%、precision 0.92、recall 0.93、F1 0.92を達成。最良CNN(DenseNet121)に対し精度・再現率で絶対+4.0%、相対約+4.5%の改善を示した。
  • クラス別ではinterparticleが最良(Precision 0.95、Recall 0.93、F1 0.94)、誤分類は主にseparate vugで発生。
  • 高解像度薄片1枚(2650孔)での全面推論は約1.5分で完了し、精度93%、Precision 0.931、Recall 0.930、F1 0.927を達成、処理スループットは1枚約2.8分(前処理1.3分+推論/後処理1.5分)で、1日160–170枚のバッチ処理が可能。
  • 近隣情報の活用が分類精度向上に大きく寄与している。
  • ViTの自己注意機構により、画像全体の長距離依存関係を捉えられるため、CNNの局所的受容野の制約を克服できている。
  • これにより、複雑な炭酸塩岩の孔隙タイプ分類において、より正確でスケーラブルな自動化が可能となった。

考察

  • CNNは局所的特徴の抽出に優れるが、グローバルな文脈理解が不足し、複雑な孔隙分類には不十分であることが示された。
  • ViTは画像をパッチに分割し、それぞれをトークンとして扱い、自己注意機構で長距離の関係性を直接モデル化できるため、孔隙の空間的・構造的関係をより深く理解できる。
  • 近隣孔の情報を含めることで、単一孔の形状だけでなく、その周囲の孔との関係性も考慮した分類が可能となり、実際の地質学的解釈に近い分析が実現。
  • 本研究は、炭酸塩岩の微細孔隙構造の高スループットかつ定量的な解析を可能にし、石油工学や地質学における炭酸塩岩評価の効率化と精度向上に貢献する。
  • 限界として、入力画像の高解像度・セグメンテーション品質・注釈品質への依存、224×224・パッチ分割による連続関係の断片化、ViTのデータ要求性、学習分布外リソファシスへの一般化不確実性、クラス不均衡の影響などが指摘される。
  • 将来展望として、Choquette & Prayの高次遺伝的分類への拡張(クラス数増でデータ収集が課題)、3DマイクロCTへの適用による真の接続性評価、Swinなどの多尺度ViTや自己教師あり事前学習、ハイブリッド拡張、予測不確実性の定量化などが提案されている。

 薄片画像 と 機械学習は相性が良いでしょう。地質屋さんなら鉱物の同定に利用するといった発想に至るようですが、特許もあるようなので注意。

2025年9月13日土曜日

3次スプライン関数で崩壊面推定 その2

Assessing the landslide failure surface depth and volume: A new spline interpolation method - ScienceDirect

GitHubにコードあり、と書かれていましたが、本日時点で ReadMe と License しか公開されていません。スプラインを使うだけの簡単な手法なので、書いてみました。

import numpy as np
from scipy.interpolate import CubicSpline
from tqdm import tqdm

def spline_failure_surface_pointwise(
    dem: np.ndarray,
    landslide_mask: np.ndarray,
    fix_points=None,
    max_iter=1000,
    tol=0.01,
    slope_angle_thresh=1
):

    failure_surface = dem.copy()

    fixed_mask = np.zeros_like(dem, dtype=bool)
    fixed_depths = np.zeros_like(dem)
    if fix_points:
        for (i, j), val in fix_points.items():
            fixed_mask[i, j] = True
            fixed_depths[i, j] = val

    nrows, ncols = dem.shape

    print('dem.shape:', dem.shape)
    print('landslide_mask.shape:', landslide_mask.shape)

    for it in tqdm(range(max_iter)):
        prev_surface = failure_surface.copy()

        for i in range(nrows):
            for j in range(ncols):
                if not landslide_mask[i,j]:
                    continue

                if fixed_mask[i,j]:
                    failure_surface[i,j] = fixed_depths[i,j]
                    continue

                j_idx_list = [jj for jj in range(ncols)
                             if landslide_mask[i,jj] and jj != j]
                if len(j_idx_list) >= 2:
                    row_vals = [failure_surface[i,jj] if not fixed_mask[i,jj] else fixed_depths[i,jj]
                                for jj in j_idx_list]
                    row_spline = CubicSpline(j_idx_list, row_vals, bc_type='not-a-knot')
                    zintp_i = row_spline(j)
                else:
                    zintp_i = failure_surface[i,j]

                i_idx_list = [ii for ii in range(nrows)
                             if landslide_mask[ii,j] and ii != i]
                if len(i_idx_list) >= 2:
                    col_vals = [failure_surface[ii,j] if not fixed_mask[ii,j] else fixed_depths[ii,j]
                                for ii in i_idx_list]
                    col_spline = CubicSpline(i_idx_list, col_vals, bc_type='not-a-knot')
                    zintp_j = col_spline(i)
                else:
                    zintp_j = failure_surface[i,j]

                # 両方向平均
                zavg = (zintp_i + zintp_j) / 2

                # 文献式:
                if zavg < failure_surface[i, j]:
                    failure_surface[i, j] = zavg

        # 収束判定(標高変化量)
        change = np.abs(failure_surface - prev_surface).max()
        if change < tol:
            print(f"Converged at iteration {it}")
            break

    return failure_surface

制御点をある関数にあてはめて残りを推定するというのはGEORAMA等と同じ考え方。GEORAMAはGUI(CAD)を利用しているので制御点を与えやすいのがメリット。

適当な地形を作って動かしてみたのが以下。


結果はイマイチ。イタレーションを3000回にしたのですが、まだ収束していません。これでも数時間かかったのですが、並列化しても半分ぐらいでしょう。DEMの解像度が高い、あるいは崩壊範囲が広いと時間のかかる手法だということがわかりました。こうなると、スプラインよりもGEORAMAの方が優秀、SLBLの方が簡素。関数を変更したら良いのでしょうね。https://www.blogger.com/blog/post/edit/269984068930159765/2223718948702813275

ま、ボーリングによる崩壊面深度を反映する場合の簡易手法ということで、覚えておきましょう。

3次スプライン関数で崩壊面推定

Assessing the landslide failure surface depth and volume: A new spline interpolation method - ScienceDirect

AI要約

背景
土砂崩れの滑落面の深さや形状、移動した土砂の体積の正確な推定は、災害評価、ボーリング計画、対策のために不可欠である。土砂崩れの滑落面が完全に露出している例は少なく、データ不足の地域では正確な評価が課題となる。これに応じて、コスト効率のよいスプライン補間法を用いた新しい手法が提案された。

手法
データ準備:
Hope SlideについてはLiDARデータから取得した8mDEM、Downie Slideについては30mDEMを使用。
スプライン補間法:
滑落面を3Dで再構築するために3次スプライン補間を使用。滑落面の深さや体積を推定するために反復計算を行い、極端な境界条件(谷先、フランク、冠部など)を利用して滑落面の深さや形状を最適化し、滑落面の「最浅」「中間」、「最深」の状態を算出する。既存データ(ボーリングデータ、露出面など)を反映させることで結果の精度を向上させることが可能。
推定処理のステップ:

  1. Landslide の境界を手動で定義し、その内部を分析領域として設定。
  2. スプライン関数はx方向(東西軸)およびy方向(南北軸)に設定。必要に応じて座標系を回転させることで、データを地すべり方向に合わせる。
  3. 対象グリッドノードを一時的に削除し、その周囲の残りデータに基づいて該当部分を再計算する。削除したノードの補間値をスプライン計算に戻し、またその部分を全体の滑落面に統合する。
  4. 各グリッドノード(i, j)に関して、反復回数 ( t ) 毎に生成されたデータ(例えば標高値 )を前回の結果と比較。推定した滑落面が収束するまでプロセスを反復。
  5. 確率密度関数(KDE: Kernel Density Estimation)を用いて、滑落面の深さに関する確率を算出。

結果
Hope Slideでは最深の滑落面での体積を65百万m³。既存のドナー指標(Donati, 2019)で示された体積48.4百万m³よりも約25%多い。
露出した滑落面領域をモデルに追加すると、体積が61百万m³となり、精度が向上。
Downie Slideでは最深の滑落面での体積は880百万m³。既存データに基づく過去の推定体積(1000億m³)との比較では、情報不足の下でも信頼性の高い結果を提供可能であった。ボーリング深度を追加してモデルを改良した結果、体積は889百万m³となり、精度が向上した。

考察
過去の標準的手法(カットアンドフィル法やGISベースの手法)よりも結果が正確であり、特に滑落面が非露出である場合の精度が向上。
手法は追加データ(ボーリング位置、露出面など)を組み込む柔軟性を持ち、精度をさらに高める可能性がある。
本手法が全てのケースに適用可能ではない点や、結果を解釈する際の注意点(例えば、境界条件の適切な設定)があることに留意する必要がある。

確率分布の表示に惹かれましたが、提案手法(スプライン補間とその反復計算)の過程で得られた値をもとに統計処理(カーネル密度推定等)を行って得られる、手法依存の確率分布でした。手法を適用できることが前提での値であり、実際のすべり面が存在する「物理的な確率」を直接表すものではありません。ま、これはどの手法にも言えるものですけれど。

そうなると、国内ではどの手法(関数)がどのようなタイプの崩壊や地すべりに適用できるか?という整理が必要です。これがないと、3次元形状を推定して3次元の安定解析を進めるにしても、その根拠はこれまで通り「経験」止まりで科学には至りませんし、説明性に劣ります。確率分布も意味のない計算になります。

これは、地質屋さんの出番ですね。


2025年9月6日土曜日

崩土の移動距離

Empirical Estimation of Landslide Runout Distance Using Geometrical Approximations in the Colombian North–East Andean Region

AI要約

背景
地滑りは、部分的な斜面の静的平衡喪失による地質的災害であり、インフラ・環境・経済への重大な影響を及ぼすことがある。特にコロンビア北東アンデス地域では、20世紀初頭以降約1.3百万米ドルの損害が報告されており、道路、建物、農地などが影響を受けている。地滑りの移動距離(ランアウト距離, LRD)はリスク評価において重要であり、特に幾何学的近似を用いた経験的モデルは広域的な研究や重要区域の特定に役立つ。コロンビア北東アンデス地域は地滑りが多発するエリアであり、地質や地形、土地利用などが複雑に絡み合う環境である。

手法
データ収集:
サンプルは、コロンビア地質調査局の地滑りインベントリからランダム抽出されたデータセットを基に、無人航空機(UAV)を使用して地形を詳細に調査。計49の地滑りが分析対象に選ばれた。
幾何学的モデルと推計式:
地滑りの特性(深さ、幅、長さ)、全高低差、高低差に基づく傾斜角などを計測。これらを用いて経験的な幾何学的モデルを適用し、ランアウト距離を推定。
既存の経験的モデル(e.g., Finlay et al. 1999, Hunter and Fell 2003)を検証し、分析されたデータセットに最適なモデルを選定した。

結果
データ分析:
地滑りランアウト距離は、土地のカバー(作物地、水域など)や地質的特性(e.g., Bocas層での砂岩)に依存することが確認された。
傾斜角度や地滑り体積とランアウト距離の間に統計的な相関があることが示された。特にランアウト距離と傾斜角においては、相関係数R²=0.32である。
モデルパフォーマンス:
Finlay et al. (1999)やHunter and Fell (2003)モデルなど既存のモデルを検証した結果、特定のモデルが他のモデルよりも良好な精度でランアウト距離を推定できることがわかった。
誤差率(RE)はモデル間で異なり、推計結果が過小評価される場合が多かったが、一部モデルは過小評価を抑えつつ信頼性の高い予測を提供した。

考察
傾斜角や地形特性はランアウト距離(LRD)の評価において鍵となる要素であるが、既存モデルによる推計の精度には依然として課題がある。誤った過小評価は、工学的実務において深刻なリスクを引き起こす可能性があるため、過大評価が望ましいとされた。
高度落差(H)に依存しないLRD推定方法の提案が行われており、これにより評価プロセスが単純化される可能性がある。
将来的には、地滑りリスク評価や高リスク地域の特定における幾何学的近似モデルの改善が必要であり、対象地域全体にわたる実証的データの収集拡張が重要である。


機械学習ではなく、重回帰。
特徴量に土砂量が使われていますが、推定式から求められています。それでも役に立つといった点は、特徴量エンジニアリングで利用できそうです。試してみましょう。

ポリゴンの崩壊域と流動/堆積域の自動区分

Towards automatic delineation of landslide source and runout - ScienceDirect

AI要約

1. 課題の背景と重要性
従来の地滑りインベントリでは、発生源と流動域が区別されず、一体として記録されることが多いため、予測モデルの精度や体積推定、ハザード評価に悪影響を及ぼしていた。発生源と流動域は力学的特性が異なるため、これらを分離することで、地滑りの発生メカニズムや伝播、堆積パターンなどをより深く理解し、より信頼性の高いハザード・リスク評価、体積推定、運動学的シミュレーションが可能になる。

2. アプローチの概要
モデルは、地滑りのトポロジー情報(形状の複雑さ)と形態情報(物理的な属性)を組み合わせて使用する。これらの特性を特徴量として、機械学習モデル(Random Forest)を訓練し、発生源領域を識別する。

3. 入力データ(特徴量)
モデルへの入力となる特徴量は、主に以下の2種類。

トポロジー特性:
代数トポロジーの手法を用いて、地滑りの地形における「穴(holes)」や「連結成分(connected components)」といった複雑な形状を数値化する。具体的には、パーシステントホモロジー(persistent homology)の概念に基づき、平均寿命(Average Lifetime)、点の数、ベッチ曲線(Betti-Curve)、ヴァッサースタイン振幅(Wasserstein Amplitude)、ボトルネック振幅(Bottleneck Amplitude)などの指標が計算される。これらは地滑りのコンパクトさ、伝播ゾーンの屈曲度、斜面の勾配の変化などを示唆する。最も重要なトポロジー特性には、穴のボトルネック振幅(BA_H)や連結成分の平均寿命(AL_C)が含まれる。

形態特性:
地滑りの物理的属性を示す要素で、ヘイムのエネルギールール(Heim energy line)に基づいた移動距離(travel distance)、移動角度(travel angle)、移動高さ(travel height)、および推定速度(velocity)などが含まれる。これらは地滑りの幾何学から導出され、運動学的指標として機能する。重要な形態特性には、移動距離、移動角度、移動高さ、平均速度が含まれる。これらの特性の中から、相互相関の高いものや特徴量重要度の低いものは排除され、モデルの予測精度を高める上位10の特徴量が特定された。

4. 回帰問題としての定式化
この研究では、発生源領域を地滑り全体の伝播長に対する発生源領域の伝播長の比率として識別する。この比率は、スカープ領域を囲むバウンディングボックスの伝播長と、地滑り全体を囲むバウンディングボックスの伝播長を用いて算出される。回帰モデルの主な目標は、予測された比率と実際の比率との間の誤差を最小化することとなる。

5. モデルの訓練と評価
訓練データ:
ドミニカ、ネパール、トルコ(バルトゥン)、イタリア(ベッルーノ)、日本(新潟)などの地域からの、約30,000の地滑りサンプルを使用してモデルを訓練および評価した。これらのデータセットの一部には、すでに発生源と流動域が分離された「グラウンドトゥルース」が含まれており、モデルのテストと予測精度評価に利用した。

訓練手法:
10 k-fold交差検定を用いた。

精度:
モデルの平均偏差指標は15%未満で、標準偏差は約8%であった。ドミニカで平均10.37%、ネパールで平均7.48%(最も良い結果)、トルコで平均12.30%の偏差を示した。

6. モデルの堅牢性
このモデルは、さまざまな地理的設定やトリガーの種類(降雨、地震、歴史的イベント)の地滑りに対して、発生源領域を高い精度で特定できることが示された。また、スライドやフローといった地滑りの動きの種類の違いに関わらず、発生源領域を効果的に識別できることも示された。

まさかのトポロジー。以前、読んだけど利用していないなと思いつつ、見返すと6年前でした。https://phreeqc.blogspot.com/2020/01/blog-post_24.html

日本のデータも含まれています。が、利用は他国の方。うーん。

崩壊土砂量推定式 V=αA^γ

崩壊生産土砂量推定式のパラメータ<i>α </i>値・<i>γ </i>値に及ぼす崩壊深や地質の影響 -2014年8月豪雨で発生した丹波地域と広島地域の土砂災害の事例-

AI要約

1. 背景
斜面崩壊地から生産される土砂は土石流となり、下流域に甚大な災害を引き起こすため、崩壊生産土砂量の早期かつ精度良い推定が求められている。崩壊生産土砂量(V)は、崩壊面積(A)と崩壊深の積で概ね求められ、V=αA^γ の累乗式で近似できることが知られている。これまで、様々な国で崩壊生産土砂量の推定手法が研究され、多くの研究者がα値・γ値を報告してきた。しかし、既存研究にはいくつかの問題点が存在する。

  • 計測値の不正確さの可能性: 崩壊深や崩壊面積の値が先行研究からの引用であり、計測者の技量や解析精度の粗さによるばらつきがある。
  • サンプル偏り: 特定の地域や規模の大きな崩壊地のデータがα値・γ値の計算に影響を与えている可能性がある。
  • 地質分類の欠如: 誘因や素因が異なっていても同一のα値・γ値を使用する研究がある一方で、地質によって崩壊の形態や規模が異なることが指摘されており、地質を考慮する必要がある。
本研究は、LP地形データを用いて崩壊深や地質が崩壊生産土砂量推定式のパラメータα値・γ値に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、既存研究のα値・γ値との比較も行う。

2. 手法
本研究では、2014年8月豪雨で土砂災害が発生した兵庫県丹波市と広島県広島市を調査地域とした。

崩壊地の抽出と土砂量・崩壊深の計算:
災害前後の1m分解能LP地形データを使用し、ArcGIS Pro2.8を用いて標高値の変化量を計算した。
崩壊地は、斜面勾配が20度以上かつ外縁部に厚さ0.5m以上の侵食が発生した領域を対象とし、空中写真で確認して認定した。
崩壊地ポリゴンごとに、侵食部の面積(Ae)と堆積部の面積(Ad)を計算し、崩壊面積Aは両者を合算した「A = Ad + Ae」で算出。
崩壊生産土砂量Vは、侵食量(Ve)と堆積量(Vd)を差分した「V = Ve - Vd」で求めた。
崩壊深Dは、崩壊地ポリゴン内における侵食部の標高値の変化量の平均値として算出。

α値とγ値の計算:
崩壊面積Aと崩壊生産土砂量Vから、累乗式V=αA^γでフィッティングすることにより、地質別にα値とγ値を計算。
対象とした地質は、丹波地域の「丹波帯頁岩砂岩」と「超丹波帯砂岩」、広島地域の「花崗岩類」「流紋岩類」「苅田層泥岩」「玖珂層泥岩」の計6種類。

3. 結果
崩壊面積Aと平均崩壊深Dの関係:
崩壊面積Aと平均崩壊深Dは、D=mA^nで近似すると、ばらつきがあるものの、地質に関係なく概ね正の相関がみられた。近似直線の傾きを示すn値は0.03〜0.36の正の範囲にあり、切片を示すm値は0.20〜1.27の範囲であった 。m値とn値の間には決定係数R2値が0.94の強い負の相関が確認された 。

地質別の崩壊生産土砂量とα値、γ値:
崩壊面積Aと崩壊生産土砂量Vの関係は、V=αAγで近似すると、全ての地質で決定係数R2値が0.996以上と非常に高く、この式で概ねVを推定できることが示された。傾きを示すγ値は0.94〜1.49の正の範囲にあり、切片を示すα値は0.08〜2.02の範囲であった。地質ごとの特徴として、丹波帯頁岩砂岩と苅田層泥岩はγ値が1.34〜1.49と他の地質よりも大きな傾向が見られた。崩壊数の合計は丹波地域が777箇所、広島地域が381箇所。崩壊面積の中央値は約150〜340m2の範囲にあり、丹波帯頁岩砂岩、超丹波帯砂岩、玖珂層砂岩で大きくな傾向があった。崩壊深の中央値は超丹波帯砂岩が1.6m以上と大きい一方で、他の地質は約1.3〜1.5mの範囲であった。

4. 考察
α値とγ値の関係性:
α値とγ値の間には負の相関があることが確認された。
崩壊面積に対する崩壊深の増加割合を示すn値が大きくなると、V=αA^γの傾きに相当するγ値が増大する傾向が見られました。これは、崩壊生産土砂量が崩壊面積と崩壊深の積で表されることと整合する結果であった。α値は極めて小規模な崩壊地の土砂量を意味するため、γ値に比べて地域や地質による差が若干不明瞭になることがある。

地質とα値・γ値の関係:
火成岩類(本研究の花崗岩類、流紋岩類、および既存研究の斑れい岩)は、概ねα値が大きく(0.76〜2.02)、γ値が小さい(0.94〜1.06)傾向に分布する。これは、これらの地質が崩壊面積に対する崩壊深の増加割合が小さい崩壊形状の分布特性を持つためと考えられる。堆積岩類は、α値が0.08〜1.90、γ値が0.97〜1.49と広範囲に分布。これは、地質ごとに崩壊形状の分布特性が多様であることに起因すると考えられる。変成岩(既存研究のホルンフェルス、黒雲母片麻岩など)は、α値が小さく(0.03)、γ値がかなり大きい(1.55)という特徴を示した。これは、崩壊面積に対する崩壊深の増加割合が大きい崩壊形状の分布特性を示唆している。

既存研究との比較:
Guzzetti et al.(2009)やLarsen et al.(2010)が提案するα値・γ値は、本研究の値と比較して、α値が小さくγ値が大きい傾向にある。ただし、丹波帯頁岩砂岩のように大規模な崩壊地を含む場合、本研究のα値・γ値はこれらの既存研究の値に近くなることがわかった。既存研究のα値・γ値を用いて土砂量を推定した場合、Larsen et al.(2010)の岩盤崩壊の場合を除き、本研究で計測された実際の土砂量よりも過小評価される傾向があった。これは、既存研究のα値が小さいため、本研究の調査対象である中小規模の崩壊地が卓越する状況では、崩壊生産土砂量を過小評価してしまうためと考えられる。一方で、Larsen et al.(2010)の岩盤崩壊のα値・γ値を用いた場合、本研究とは崩壊深の規模が大きく異なるため、土砂量が約2倍に過大評価される結果となった。

5. 今後の展望
本研究で扱った地質の種類は限られているものの、今後さらに計測データを増やすことで、α値・γ値を地質ごとにある程度体系的に整理できると考えている。これにより、土砂災害発生時の砂防基本計画などにおいて、崩壊生産土砂量推定式の活用を目指し、地質ごとのα値・γ値のデータを蓄積していくことが期待される。

地質によらず、この形の式を使えそうだという点、地質によって係数が変化する点、大規模か小規模かにより切片αの重要性が変わる点など、V=αA^γ に着目して研究された結果です。降雨、地震によらず式は適用できるが、地域は考慮しないとダメ。というか、不確定な内容を地域(係数)に押し込んでいるのかもしれません。
データを蓄積しないと予測には使えませんし、そもそも正確なポリゴン、崩壊面の推定、土砂量の算出がないと正しい係数を得られません。手間がかかる研究です。