2026年2月28日土曜日

文献:Spatial variations in groundwater chemistry in Uganda

Spatial variations in groundwater chemistry in Uganda: Geogenic origins and geochemical controls across diverse hydrogeological settings - ScienceDirect

AI要約

ウガンダの人口の約75%は地下水に依存しており、特に農村部や都市周辺部においてその重要性は極めて高い。本調査では、5つの主要な水理地質学的環境(先カンブリア紀変成堆積岩、片麻岩複合体、未固結堆積物、火山岩、変成火山岩)を対象に分析が行われた。

  • 主要な水質特性: 地下水の多くは、地質との平衡状態を反映した新鮮な「Ca-HCO3(炭酸水素カルシウム)型」であるが、変成火山岩(MV)や堆積物(SDM)の設定では、陽イオン交換や地球化学的進化の進行を反映した「Na-HCO3(炭酸水素ナトリウム)型」や「Na-Cl(塩化ナトリウム)型」が支配的である。
  • 水質基準の超過状況: 世界保健機関(WHO)の飲料水指針値を超える項目として、硝酸態窒素(NO3⁻)が全サンプルの14%で検出された。その他、マンガン(Mn)5%、鉄(Fe)3%、フッ化物(F⁻)3%、塩化物(Cl⁻)3%の割合で超過が見られた。
  • 地球化学的制御要因: ケイ酸塩(主にフェルシック岩)の風化、陽イオン交換、および炭酸塩の溶解が主要な支配要因である。一方で、蒸発濃縮や石膏の溶解による影響は最小限であることが示された。
  • 二次鉱物の安定性: 火山岩地域では、急速な流動と排水条件により「カオリナイト」が安定する一方、その他の地域では「クリノプチロライト」が安定する傾向にある。

1. 水理地質学的環境の概要

調査対象となったウガンダの地質は多岐にわたり、30億年以上の歴史を持つ先カンブリア紀の結晶質の基盤岩が大部分を占める。本報告書では、以下の5つの区分に基づき分析を行っている。

略称
水理地質学的区分
サンプル数 (n)
主な特徴
MS
先カンブリア紀変成堆積岩
30
ビクトリア湖テレーンの花崗岩・緑色岩など。
GG
顆粒岩・片麻岩複合体
21
ウガンダ東部(イガンガ、カリロ、トロロ)に広く分布。
SDM
未固結堆積物
10
キョーガ湖盆地周辺。高い浸透性を持つ。
VO
火山岩
7
エルゴン山周辺。アルカリ性/ソーダ性火山岩。
MV
変成火山岩
6
ブシア周辺の変成した火山岩。


2. 地下水の化学特性と空間的変動
地下水の化学組成は、水理地質学的環境によって顕著な差異を示す。

2.1 主要イオン
地下水の多くは、化学的進化が限定的な浅層地下水に典型的なCa-HCO3型に分類される。しかし、特定の地質条件下では異なる特性が見られる。

  • SDM(堆積物): 陽イオン(Ca, K, Mg, Na)および陰イオン(Cl⁻, SO₄²⁻, F⁻, HCO₃⁻)の濃度が最も高い。これは、未固結堆積物の高い空隙率と透過性が鉱物溶解を促進しているためと考えられる。
  • VO(火山岩): 主要イオンの濃度が最も低い。サンプリングされた湧水は流速が速く、岩石との接触時間が短いため、岩石・水相互作用が限定的であることを示唆している。
  • MV(変成火山岩): Na-HCO3型が支配的であり、帯水層の脱塩過程における陽イオン交換の影響が強い。
  • SDMの一部: Na-Cl型が優勢であり、蒸発濃縮、粘土質堆積物内の陽イオン交換、または人類起源の入力の影響が示唆される。

2.2 溶存ケイ素 (Si)
Si濃度は、SDM > MV > GG > MS > VO の順で低下する。これはケイ酸塩の風化率の差、または各環境におけるフェルシック岩の分布と風化の程度を反映している。

3. 地球化学的プロセスと支配要因
分析結果から、地下水質を形成する主なメカニズムが特定された。

3.1 鉱物の風化と溶解

  • ケイ酸塩風化: 全ての環境において、(Na⁺+K⁺)/Cl⁻比が1を超えており、ケイ酸塩(長石類)の風化が主要なイオン源であることを示している。
  • 炭酸塩溶解: カルサイトやドロマイトの溶解が、特に火山岩地域などでCaやMgの供給源となっている。
  • 限定的な影響: ギブス図(Gibbs diagram)によれば、岩石の風化が支配的であり、蒸発や降水による影響は小さい。また、石膏の溶解による影響も極めて限定的である。

3.2 陽イオン交換プロセス
(Na⁺+K⁺)-Cl⁻ と (Ca²⁺+Mg²⁺)-(HCO₃⁻+SO₄²⁻) の関係から、陽イオン交換が地下水組成の変化に重要な役割を果たしていることが判明した。特にMVやSDMでは、Ca²⁺やMg²⁺が鉱物表面のNa⁺と交換されるプロセスが顕著である。

3.3 二次鉱物の熱力学的平衡

  • Geochemist's Workbench® (GWB) 2023 Community Edition: Piper図やDurov図の作成、飽和指数(SI)安定図の作成に使用されました。この計算には、thermo.tdat データベースが利用された。
  • PHREEQC : Ca、K、Si、Na、pH、温度などの入力パラメータを用いて、全サンプルのイオン活動度を計算するために使用されました。こちらには、Phreeqc.dat データベースが利用された。

地球化学モデリングにより、以下の平衡状態が確認された。

  • 不飽和状態: ほとんどのサンプルでカルサイト、ドロマイト、石膏、ハロゲン化物は不飽和であり、これらが溶解する余地があることを示している。
  • 過飽和状態: 石英(Quartz)については一貫して過飽和状態にある。
  • 安定相の相違: 火山岩(VO)地域では「カオリナイト」が安定な二次鉱物として形成される(モノシアリタイゼーション)。これは急速な地下水流動と低いケイ素蓄積を反映している。一方、他の環境では「クリノプチロライト(沸石の一種)」が安定相となりやすい。
  • 溶解度の差: 石英は非常に安定した結晶構造を持っており、溶解度が非常に低い。一方、非晶質シリカは構造が不規則で、石英よりもはるかに水に溶けやすい(溶解度が高い)。
  • シリカ濃度の供給源: この地域の地下水中のシリカは、主に長石(アルバイト、カリ長石、灰長石)などのケイ酸塩鉱物の風化(加水分解)によって供給されています。
  • 飽和状態の閾値: 地下水に溶け出したシリカ(H4SiO4 )の濃度は、石英の低い溶解度を上回るには十分な量であるため、石英に対しては「過飽和(SI > 0)」となります。しかし、その濃度は非晶質シリカの高い溶解度に達するほどではないため、非晶質シリカに対しては「不飽和(SI < 0)」の状態にとどまっています。
  • 沈殿の速度(キネティクス): 石英は熱力学的に過飽和であっても、実際に沈殿して結晶化する速度が非常に遅いという特徴があります。そのため、地下水中のシリカ濃度は、石英の飽和線を超えて、非晶質シリカの飽和線に近いレベル(または二次鉱物を形成するレベル)まで上昇して維持されます。
  • このように、地下水の化学組成は、最も溶けにくい相(石英)と最も溶けやすい相(非晶質シリカ)の中間に位置しており、これが二次鉱物(クリノプチロライトやカオリナイトなど)の形成に影響を与えています。
3.4 考察 
  • ウガンダの火山岩地域(VO)では、湧水などの迅速な地下水の流れがあり、非常に良好排水(well-drained)されています。このため、長石などの一次鉱物が風化してシリカが放出されても、それが蓄積せずに洗い流されるため、溶解シリカ濃度が他の地域ほど高くならず、カオリナイトが熱力学的に安定な相となります。
  • このような迅速な水の循環と低いシリカ蓄積条件下では、ケイ酸塩鉱物の風化プロセスとしてmonosiallitisation が活発になります。これは、シリカが豊富な二次鉱物(クリノプチロライトなどのゼオライト)が形成される代わりに、よりシリカの含有率が低いカオリナイトが形成されるプロセスです。
  • 石英は非常に溶解度が低いため、カオリナイトが安定するような比較的低いシリカ濃度であっても、石英の飽和指数(SI)は0を超え、過飽和状態になります。つまり、「石英にとっては十分な濃度だが、ゼオライト(クリノプチロライト)などのよりシリカを必要とする鉱物が形成されるには不十分な濃度」という絶妙なバランスにあるときに、カオリナイトが安定します。 
  • ウガンダの火山岩地域(VO)の地下水は、調査された設定の中で最も高いpH値(最大8.4)を示しており、この化学的条件がカオリナイトの安定領域に位置する要因の1つとなっています
  • 対照的に、MS(変成堆積岩)やGG(片麻岩)などの他の地質環境では、水の滞留時間が長くシリカが蓄積しやすいため、よりシリカ濃度の高い環境で安定するクリノプチロライトが優勢になります。
  • クリノプチロライトは、たとえ地層中での含有量が少なくても、活発なイオン交換を促進することで地下水の化学的性質に直接的な影響を及ぼすことができます。
  • 陽イオンの組成変化: 特にメタ火山岩(MV)地域などで顕著ですが、地下水中のカルシウム(Ca2+)やマグネシウム(Mg2+)が、鉱物表面のナトリウム(Na+)と優先的に交換されるプロセス(陽イオン交換)を支えています。
  • このイオン交換の結果、地下水のタイプが一般的なCa-HCO3型から、より化学的に進化したNa-HCO3型やNa-Cl型へとシフトします。
  • フッ化物濃度の制御: ナトリウムに富む水(Na-rich waters)へと変化することで、ベース交換プロセスを通じてカルシウム濃度が低下し、その結果として蛍石(Fluorite)などからのフッ化物の放出・溶解を助長する傾向があります。 
  • SDM(未固結堆積岩)地域においてNa-Cl型(塩化ナトリウム型)の地下水が支配的(サンプルの40%)になる背景には、地質学的・水文学的な複数の要因が組み合わさっています。
  • 蒸発濃縮プロセスの影響: SDM地域の地下水は比較的浅く、水理的に活動的な層に存在します。このような環境では、地下水面に近い場所での蒸発濃縮が、地下水の塩分濃度(Na⁺およびCl⁻)を高める強力な制御要因として働いています。
  • 局所的な残留塩分: この地域の地質は細粒の湖成堆積物を含んでおり、そこに閉じ込められた局所的な残留塩分(residual salinity)が地下水に影響を与えている可能性が指摘されています。
  • 粘土質堆積物での陽イオン交換: SDM地域に含まれる粘土が豊富な堆積物において、陽イオン交換が進むことでナトリウムが濃縮されやすい環境にあります。
  • 高い空隙率と浸透性: ウガンダの未固結堆積物は高い空隙率と浸透性を持っており、これが迅速な水の移動を可能にしています。通常、流れが速いと反応時間は短くなりますが、常に未飽和の新しい水が鉱物表面に供給され続けることで、化学的勾配が維持され、活発な鉱物溶解が継続します。
  • 人為的要因: 農業や都市化に伴う人為的な入力(下水など)も、Na⁺とCl⁻の両方を供給する要因として寄与していると考えられています。

 4. 水質評価と利用可能性

4.1 飲料水としての適合性
全体として多くの地点でWHOの指針値を満たしているが、一部で超過が確認された。

項目
全体超過率
環境別の主な超過状況
起源の推定
硝酸態窒素 (NO3⁻)
14%
MS (20%), GG (14%)
農地排水、都市汚染、不適切な衛生施設(人為的)
マンガン (Mn)
5%
MS (13%)
母岩の自然風化(地質的)
鉄 (Fe)
3%
MV (17%), GG (5%)
母岩の風化、パイプの腐食(地質的/設備的)
フッ化物 (F⁻)
3%
SDM (10%)
フッ石や雲母などの鉱物溶解(地質的)

4.2 灌漑への適合性
ほとんどのサンプルは「低〜中程度の塩分濃度」および「低ナトリウムリスク(C1-S1 〜 C3-S1)」に分類され、多くの作物に適している。ただし、一部のボーリング孔(SDM, MS, GG)ではマグネシウム・ハザード比が1を超えており、長期的な使用により土壌の浸透性を低下させるリスクがある。

5. 結論
本研究は、ウガンダの多様な地質が地下水のベースライン水質を決定する主要な要因であることを明らかにした。

  • 地質学的支配: 地下水の化学組成は、主にフェルシックなケイ酸塩鉱物の風化、炭酸塩の溶解、および陽イオン交換によって形成されている。
  • 空間的変動: 堆積物地域(SDM)では溶存イオン濃度が高く、火山岩地域(VO)では低い。
  • 人為的影響: 硝酸態窒素の超過は人為的な汚染(農業や都市廃棄物)を示唆しており、特に人口密度の高い地域での監視が必要である。
  • 管理への示唆: 水理地質学的環境ごとに異なる水質特性とリスクが存在するため、地域特性に応じた地下水管理とモニタリング戦略の構築が求められる。


カオリンや沸石の熱力学的安定領域、イオン交換に伴う水質の変化などが記されています。試験結果を使って、分析を行い、評価するといった道理にかなった手順が踏まれていて、理解しやすい内容だと思います。

文献:Sources and mobilisation pathways for geogenic arsenic contamination in groundwaters

Sources and mobilisation pathways for geogenic arsenic contamination in groundwaters; a case study from eastern Ireland - ScienceDirect

AI要約

本資料は、アイルランド東部ダブリン州ブリッタス(Brittas)周辺の地下水における地質学的ヒ素(As)汚染の調査結果をまとめたものである。主な知見は以下の通りである。

  • 深刻な汚染状況: 調査対象となった私用井戸の50%以上(追跡調査では70%以上)で、世界保健機関(WHO)の飲料水基準(10 μg/L)を超えるヒ素が検出された。最大濃度は69 μg/Lに達している。
  • 地質学的供給源: 主な供給源は、下部古生代の灰色輝緑岩(グレーワッケ)および粘板岩の割れ目内にある石英脈に含まれる「硫砒鉄鉱(Arsenopyrite)」の酸化である。
  • 動態経路の複雑性: ヒ素は主に酸化プロセスによって溶出するが、二酸化マンガンや酸化鉄への吸着・脱離、さらには断層に関連した深部地下水の流入など、複数の段階を経て移動している。
  • ポンプによる曝露リスクの増大: 家庭用揚水ポンプの高流速運転により、酸化鉄等に吸着した粒子状のヒ素が巻き上げられ、蛇口水では低流量サンプリング時を大幅に上回る濃度(最大116.8 μg/L)が検出された。これは住民の健康リスクが過小評価されている可能性を示唆している。

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1. 背景と調査の目的

アイルランドには17万本以上の私用井戸が存在するが、地質学的要因によるヒ素汚染の研究はこれまで限定的であった。ヒ素は国際がん研究機関(IARC)によりグループ1の純粋な発がん性物質に分類されており、皮膚疾患やがんを含む広範な健康被害を引き起こす。
本調査は、アイルランド地質調査所(GSI)の「Tellusプロジェクト」による河川堆積物調査で高濃度のヒ素異常が確認されたダブリン州ブリッタス北西部の地域を対象に、地下水の水質とヒ素の移動メカニズムを解明するために実施された。

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2. 地質学的および水理学的背景

2.1 地質構造
主な岩石: 下部古生代キルカレン層群(Kilcullen Group)の灰色輝緑岩、粘板岩、千枚岩。
特筆すべき構造: 岩石の変形が激しいゾーンには、最大50cm厚の石英脈が発達している。また、東西方向に走る顕著な断層が地下水の流動経路に影響を与えている。

2.2 鉱物学的供給源
SEM-EDX(走査電子顕微鏡エネルギー分散型X線分析)により、以下の点が確認された。

  • 硫砒鉄鉱(FeAsS): 石英脈と岩石の界面に直径約1mmの風化した結晶として存在。これがヒ素の主要な一次供給源である。
  • 黄鉄鉱(Pyrite): 地域全体に広く分布しているが、顕著なヒ素の含有は見られなかった。
  • 重晶石(Baryte): 黄鉄鉱とともに確認されており、後述する硫酸塩濃度の抑制に関与している。

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3. ヒ素濃度の分析結果

3.1 地下水および地表水
予備調査(29地点): 55%のサンプルでWHO基準(10 μg/L)を超過。中央値は12.9 μg/L。
追跡調査(13地点): 低流量サンプリングの結果、70%以上がWHO基準を超過。ろ過水の中央値は24 μg/L、最大51.7 μg/L。
地表水: 小さな河川でも最大85 μg/L、中央値54.3 μg/Lと、極めて高いヒ素濃度が検出された。

3.2 蛇口水(家庭での飲用状態)
低流量で採取した地下水サンプルと比較して、家庭の蛇口から直接採取した未ろ過水(Tap Water)では、ヒ素濃度が著しく上昇するケースが確認された。
ASW03地点: 低流量サンプリングでは9 μg/L未満であったが、蛇口水では最大116.8 μg/Lを記録した。

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4. ヒ素の動態経路と化学的挙動
調査データに基づき、ヒ素が岩石から飲料水へ移動するプロセスには、以下の多段階のステップが関与していると推測される。

4.1 一次溶出:酸化プロセス
硫砒鉄鉱が地下水中の酸素と反応して酸化・溶解し、ヒ素と硫酸塩を放出する。
指標: 低pH、低アルカリ度、低電気伝導度、高い酸化還元電位(Eh)を持つ地下水ほど、ヒ素濃度が高い傾向にある。

4.2 二次沈殿と吸着
硫酸塩の挙動: 硫砒鉄鉱の酸化によって硫酸塩も放出されるはずだが、実際にはヒ素濃度と硫酸塩濃度には負の相関が見られる。これは、重晶石(BaSO4)の沈殿によって硫酸塩が消費・抑制されているためである。
吸着メカニズム: 溶出したヒ素(主に五価のヒ素:H2AsO4⁻ または HAsO4²⁻)は、岩石の割れ目表面にある鉄・マンガン酸化物/水酸化物の微粒子に吸着される。

4.3 物理的同伴(揚水による影響)
家庭で使用される強力な潜水ポンプは、井戸内の酸化鉄粒子(ヒ素を吸着したもの)を巻き上げる。これにより、本来は不溶性の粒子として存在していたヒ素が飲料水中に混入し、消費者の曝露量を急増させる。

4.4 深部地下水の関与
断層付近の深い井戸(50m以上)では、通常とは異なる水質が見られた。
特徴: 高アルカリ度、高pH、高マグネシウム(Mg)、高マンガン(Mn)濃度。
推論: 断層を介して、より還元的で異なる反応経路を経た深い層の地下水が混入しており、これが高いヒ素濃度の一因となっている。

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5. 結論と提言

ブリッタス地域における調査は、アイルランドの fractured bedrock(割れ目のある基盤岩)帯帯水層において、自然由来のヒ素が深刻なリスクとなっていることを実証した。

  • 曝露リスクの過小評価: 標準的な低流量サンプリングでは、粒子同伴によるヒ素の総量を捉えきれず、実際の飲用リスクを過小評価する可能性がある。
  • 広域的な警戒の必要性: Tellusプロジェクトのような堆積物調査データは、同様の地質学的リスクがある地域を特定するための重要なツールとなる。
  • 公衆衛生上の課題: アイルランドの井戸所有者は病原菌への意識は高いが、ヒ素のような地質学的汚染物質のリスクを軽視する傾向にある。汚染が疑われる地域では、適切な水質検査と対策が不可欠である。
鉱物学、地質学からの科学的視点と、実用的な提言がセットで記載されている文献です。まとまっています。
ポンプを使った方が物理的な巻き上げを伴い高濃度となる場合があることは初めて知りました。低流量が原則と思っていましたが、頭が固かったようです。

2026年2月23日月曜日

文献:Landslide susceptibility zoning through physically-based limit equilibrium method modelling

Landslide susceptibility zoning through physically-based limit equilibrium method modelling - ScienceDirect

AI要約

背景
 地滑りは世界で最も普及している地形学的災害の一つであり、気候変動による豪雨の増加に伴い、その頻度が高まっています。被害軽減や都市計画のためには、特定の地域での発生可能性を示す地滑り感受性(LS)の評価とマッピングが不可欠です。従来の評価手法には、主観的な定性的手法と、統計的または物理学的な定量的手法があります。統計的手法は広域評価に適していますが物理的プロセスを直接考慮せず、物理モデルは詳細な地盤データが必要なため広域適用が困難という課題がありました。本研究は、これらを克服する新しい広域物理モデル手法を提案しています。

手法
本研究では、GeoPhyLS(Geospatial Physically-based Landslide Susceptibility)と呼ばれる手法を開発しました。この手法は以下の4つのコードブロックで構成されます。

1. Extractor(抽出器): DEMから排水路に基づいた Half-Basins (HB) を作成し、各HB内で斜面方位(モーダル値および±45度)に沿った2次元断面を自動生成します。これに地質図に基づく力学パラメータを割り当てます。

• ハーフ・ベイスン(HB)の活用: 地形を、尾根線(分水嶺)から排水路(流路)までの単位である「ハーフ・ベイスン」に分割します。これは地形的に意味のある単位でモデルの境界を定義するためです。計算効率を最適化するため、ユーザーはDEMの解像度を調整したり、HBのサイズを選択したりできます。

• 断面方向の決定: 各HBにおいて、地形の方位(アスペクト)の最頻値(モード値)と、そこから±45度変化させた計3つの方向に沿って断面線を引きます。これは、単一の方向だけでは「最も急な斜面」や「最も重大な崩壊方向」を見逃すリスクがあるため、包括的に斜面を調査するための工夫です。

• パラメータの統合: 断面上の各点には、地質図から抽出された**有効粘着力(c')、有効内部摩擦角(φ')、単位体積重量(γ)**などの力学パラメータが割り当てられます。最終的に、解析ソフトウェアCSSAPで読み込み可能な形式(.dat, .geo, .fld, .utm, .modファイル)として出力されます。

2. Analyser(分析器): SSAP2010ソフトウェアを用い、2次元極限平衡法(LEM)ランダムサーチアルゴリズムの使用で、滑り面の形状(円弧、平面、複合線)を事前に仮定せずに探索し、局所的な安全率(SF)を算出します。 

• SSAP2010の使用: 2次元LEM解析ソフトSSAP2010のコマンドライン版(CSSAP)を使用し、並列処理によって数百から数千の計算タスクを高速に処理します。

• ランダムサーチアルゴリズムの革新性: 本手法の最大の特徴は、滑り面の形状を事前に仮定しない点にあります。従来のモデルが円弧や平面を仮定するのに対し、このアルゴリズムは円弧、平面、さらには「複合線(mixed-line)」を含む任意の形状の滑り面を自動的に探索します。これにより、浅い崩壊から深い崩壊まで、多様なメカニズムをバイアスなしに評価できます。

3. Interpolator(補間器): 各断面の最小局所SF値をグリッドノードに抽出し、IDW法で領域全体に空間補間してSFマップと滑り面深さマップを生成します。

4. Classifier(分類器): SFを単なる絶対値ではなく「不安定指数」と見なし、観測された地滑りデータを用いたロジスティック回帰分析によって、SFを発生確率としてのLSへ変換・分類します。

結果
イタリア南部のボヴィーノを対象とした適用では、地盤物性と水文条件を組み合わせた複数のシナリオ(最悪・妥当・最良)を分析しました。

• 水文条件(Hydraulic settings):
 Saturated(飽和): 地下水位が地表面にあると仮定した「最悪」の条件。
Dry(乾燥): 地下水を考慮しない「最良」の条件。

• 地盤物性条件(Geomechanical parametrisation):
イタリア全土のデジタル地質図(Bucci et al. 2021, 2022)に基づき、対象地域を以下の4つのリソタイプ(岩相)に分類しました。
• 沖積堆積物 (Al)
• フリッシュ / 珪質砕屑性堆積岩 (Ssr)
• 固結砕屑岩 (Ccr)
• 未固結砕屑岩 (Ucr)

広域にわたる詳細な地盤データの不足を補うため、以下のソースからパラメータを取得しました。
• フリッシュ (Ssr): ボヴィーノ南部の斜面で行われた14本のボーリング調査、および深さ3〜20mから採取された不攪乱試料に対する23の室内試験(三軸圧縮試験、直接せん断試験)の結果に基づく学術文献から抽出されました。
• その他の地質単位: 既存の地盤工学データベース(GeoSTRU 2015; Monte et al. 2024a, b)からデータを収集しました。

詳細な層序情報が全域で得られないため、以下の3層構造をモデルとして仮定しました。
• 第1層(地表〜3m): 浅い層を代表させるため、下層よりも低い強度パラメータを割り当てました。
• 第2層(3m〜25m): 文献やデータベースから得られた値を直接割り当てました。
• 第3層(25m以深): 一律に基盤岩(Bedrock)と見なし、非常に高い強度値を設定しました。

地盤物性の自然なばらつきや不確実性に対応するため、単一の平均値ではなく、「最小値(Min)」「平均値(Avg)」「最大値(Max)」の範囲を定義し、以下の3つのシナリオを設定しました。
• 最悪(Worst): 強度パラメータ(c ′ ,ϕ′ )に最小値を適用。
• 妥当(Plausible): 平均値を適用。
• 最良(Best): 最大値を適用。

乾燥状態かつ強度が低い「最悪シナリオ」AUC(受信者動作特性曲線下面積)が0.82と最も高い識別能力を示しました。 

考察
本手法は、従来の無限長斜面モデルでは困難だった多様な滑りメカニズムの評価を広域で可能にしました。SFを確率的なLSに変換することで、シナリオ間の不確実性を考慮しつつ、一貫した感受性パターンを特定できています。既存の統計的手法(LAND-SE)との比較でも同等以上の性能が確認されており、地盤データが限られる広域評価において物理モデルを活用する強力なツールとなります。今後は過去の地滑り履歴が及ぼす影響の統合などが課題です。


土質に応じたパラメータを3ケース設定し、ロジスティック回帰で安全率をLSに変換。 安定エリア: 「0」、 不安定エリア(地滑り地点):「1」としてAUCを計算、といった流れです。物理モデルベースなので、説明性が高いのが特徴です。これにSFやパラメータの取り得る確率が入れば完璧でしょうか。

文献:Physical and Data-Driven Landslide Susceptibility Assessment Frameworks

Physically Based and Data-Driven Models for Landslide Susceptibility Assessment: Principles, Applications, and Challenges

AI要約

背景
地滑りは、インフラ破壊や甚大な人的・経済的損失、二次災害を引き起こす深刻な地質学的現象です。地滑り感受性評価(LSA)は、特定の地域での地滑り発生確率を予測することを目的としており、土地利用計画や防災管理、資源配分において重要な役割を果たします。近年のリモートセンシングやGIS技術の発展に伴い、物理的原理に基づくモデルと統計・機械学習を用いたデータ駆動型モデルの双方が進化していますが、それぞれの利点や限界、相互補完の可能性を整理することが、将来の防災戦略において不可欠となっています。

手法
本論文では、2005年から2024年までの国際的な査読済み論文1,078件を抽出・分析し、以下の2つの主要なアプローチを詳述しています。

1. 物理学的モデル(Physically Based Models) 力学、水理学、材料科学の基本原理に基づき、重力、土壌の粘着力、摩擦、間隙水圧の変化を数式で表現します。

原理: モール・クーロンの破壊基準(せん断強度の算出)やダルシーの法則(地下水浸透の制御)等の数式を用いて、安全率(FS)を算出します。

分類: 静的安定性モデル(無限斜面モデル等)、時間依存の変位を扱う動的変位予測モデル、降雨浸透を考慮する水・土砂結合モデル、気候変動の影響を評価する気候駆動型モデルに分けられます。

ワークフロー: 地形データ(DEM等)や土壌パラメータ(粘着力、内部摩擦角等)を入力し、TRIGRSやSINMAP等のモデルを用いて解析、最終的に感受性マップを作成・検証します。

2. データ駆動型モデル(Data-Driven Models) 過去の地滑り履歴データから機械学習や統計アルゴリズムを用いてパターンを学習します。

アルゴリズム: ロジスティック回帰(LR)等の伝統的統計手法から、サポートベクターマシン(SVM)、ランダムフォレスト(RF)、人工ニューラルネットワーク(ANN)等の機械学習、さらにCNNやTransformerを用いた深層学習まで多岐にわたります。

ワークフロー: 地形、地質、気象、土地利用等の要因を「特徴量」として抽出、データ正規化や主成分分析(PCA)を経てモデルを構築し、ROC曲線やAUC(曲線下面積)等の指標で予測精度を評価します。

結果
地滑り感受性研究は、2010年頃から徐々に増加し、2016年以降はデータ駆動型モデルを中心に爆発的な成長を遂げています。地理的には中国、インド、ベトナム等のアジア諸国の貢献が顕著です。物理学的モデルではTRIGRSやSINMAPが主要な枠組みとして定着している一方、データ駆動型モデルではSVMが最も頻繁に使用され、近年は深層学習(CNN等)による空間特徴抽出が予測精度を大幅に向上させています。

考察
物理学的モデルは、発生メカニズムの解釈性が高いものの、詳細な地質パラメータの取得が困難であり、計算コストも高いという課題があります。一方でデータ駆動型モデルは、非線形で複雑なデータの処理に優れ高い予測精度を誇りますが、「ブラックボックス」化しやすく物理的解釈に欠ける点が弱点です。 今後の展望として、本論文は以下の5点を提唱しています。

1. ハイブリッドモデル: 物理の解釈性と機械学習の予測力を統合したフレームワークの構築。
2. 多源・多尺度データ融合: InSARやLiDAR等、最新のリモートセンシングデータの統合。
3. パラメータ最適化: ベイズ校正等を用いた不確実性の定量的評価。
4. 地域転移性の向上: 特定の地域で学習したモデルを他地域でも適用可能にする技術の確立。
5. 解釈性の向上: SHAP値などの説明可能AI(XAI)の導入による意思決定の透明化。

機械学習による LSM 作成 は、既に出尽くしたように感じます。機械学習の適用だけなら学生でもできるため、ツールを使った報告以上の成果が求められています。
https://phreeqc.blogspot.com/2024/12/das.html

物理モデルベースのレビューは他にもあり、課題や展望として、気象変動への対応やIOT利用なども挙げられていました。



2026年2月22日日曜日

文献:Trend Classification of InSAR Displacement Time Series Using SAE–CNN

Trend Classification of InSAR Displacement Time Series Using SAE–CNN

AI要約

背景
マルチテンポラルInSAR(MTInSAR)技術は、広範囲の地盤変動を測定する上で貴重なツールですが、数百万のコヒーレントターゲット(CT)から得られる変位時系列を解釈し、危険な信号を特定することは困難です。既存の統計的手法は、複雑な変形を記述するのが難しく、InSAR時系列に不可避な位相ノイズの影響を受けやすいという限界がありました。また、先行の機械学習アプローチでは、教師なし学習の結果が初期パラメータや専門知識に大きく依存し、教師あり学習では特徴量エンジニアリングや手動介入の課題がありました。

手法
本研究では、InSAR時系列の分類を目的として、最適化されたStacked Autoencoder(SAE)とConvolutional Neural Network(CNN)を組み合わせた深層学習手法(SAE-CNN)を提案しています。このハイブリッドモデルは、SAEがInSAR時系列からノイズの影響を低減し、微妙な変形パターンに関連する深層特徴を抽出する能力と、CNNが時系列内の様々なスケールで変位トレンドを捉える能力を組み合わせています。SAEは、softmax分類器を備えたバックプロパゲーションニューラルネットワーク(BPNN)によって最適化されています。

分類対象の変形トレンドは、「安定(stable)」、「線形(linear)」、「加速(accelerating)」、「減速(deceleration)」、および「位相アンラップ誤差(PUE)」の5つのカテゴリに定義されました。これらのカテゴリに属する5000のサンプル(各カテゴリ1000サンプル)が、手動の視覚的解釈と相互確認によってラベリングされ、70%がモデルの教師あり学習に、30%が検証に使用されました。データは、Sklearnライブラリを用いて前処理(データ準備、クリーニング、正規化、学習/テスト分割など)され、異常な変形信号に対するモデルの感度を高めるために、線形、加速、減速のカテゴリには重み付けがされました。モデルの性能評価には、精度(accuracy)、適合率(precision)、再現率(recall)、F1スコア、および混同行列が用いられました。

本手法は、2017年1月から2022年9月までの171枚のSentinel-1画像から抽出された561,839のCTに対し、中国昆明市を対象地域として適用されました。昆明市は、急速な都市化、軟弱な地盤、および顕著な地盤変形のため、研究対象として選ばれています。

結果
提案されたSAE-CNNモデルは、ラベル付けされたサンプルに対して95.1%の精度を達成しました。比較実験では、本モデルが従来のCNN、Random Forest(RF)、Support Vector Machine Classification(SVC)といった他の分類モデルよりも、精度、適合率、再現率、F1スコアのすべての指標で優れていることが示されました。特に、従来のCNNと比較して、精度で6.4%、F1値で6.1%の改善が見られました。混同行列の分析により、本モデルは、加速パターンと減速パターンを混同しがちな他のモデルと比較して、加速パターンの認識において7.7%の精度向上を示し、異なる分類カテゴリを区別する能力が優れていることが実証されました。

SAEの有効性は、t-SNE可視化によっても確認され、SAEがInSAR時系列データの分離可能性を著しく向上させ、ノイズを低減し、複雑な分類シナリオを容易に分類可能なものに変えることが示されました。

昆明市への適用結果では、CTの約79.28%が安定していると分類され、残りのうち線形が10.70%、減速が5.30%、加速が4.72%、PUEが3.60%でした。特に、S2地域では危険な加速変形が住宅地で観測され、S3地域では減速変形が主であることが示されました。本手法は、InSAR時系列単独では見逃されがちな地域(例:P1クラスター)における減速変形を特定するなど、広域InSAR結果の解釈を補完する能力があることが示されました。また、不規則な建物や建設活動がある地域(P4, P5, P6)で複雑な変形パターンを識別しました。

計算時間については、提案手法の訓練およびテストに要した時間は32.18秒であり、CNN(3.36秒)やRF(1.69秒)よりは長いものの、SVC(413.46秒)よりは大幅に高速であり、合理的な計算速度で競争力のある精度を提供することが示されました。

考察
本研究のSAE-CNNモデルは、人間の介入なしに、大規模な地盤変動の特徴を区別し、非線形変形信号を検出できるという利点があります。これにより、変形パターンの理解が深まり、MTInSAR成果品の定性的な解釈が向上します。

ただし、本研究で設定された5つのカテゴリは、実際の変形現象を簡略化したものであり、すべての複雑な変形を網羅しているわけではないため、誤分類(誤警報)につながる可能性が指摘されています。この問題は、より高品質な参照サンプルを用いたモデル学習や、教師なし学習手法の検討によって軽減できる可能性がありますが、後者にはアルゴリズムとパラメータ選択、結果の解釈という課題が伴います。処理時間のさらなる改善は、非常に大規模なデータセットへの適用を考慮する上で必要です。本分類結果は、変形プロセスによる悪影響を軽減するための意思決定や予防的措置において重要な情報源となります。


精度や誤差の評価を除き、ひとまず変動マップの作成まで自動化できるようになります。

文献:Is higher resolution always better?

NHESS - Is higher resolution always better? A comparison of open-access DEMs for optimized slope unit delineation and regional landslide prediction

AI要約

背景 (Background): デジタル標高モデル(DEM)は、地形形態の再現や土砂災害誘発要因の導出、斜面単位(SU)の区画において、土砂災害研究に不可欠です。DEMの品質は土砂災害予測能力に大きく影響するため、適切なDEMの選択が重要ですが、しばしば解像度やアクセス性のみで選ばれてきました。

手法 (Methods): 本研究は、イタリアのマルケ地域で、土砂災害感受性評価のための最適なDEMとSUパラメータを特定することを目的としました。 フェーズ1では、ALOS、COP、FABDEM(グローバルDEM)とTINITALY(国内DEM)を、高解像度航空ライダー(参照DEM)と比較しました。比較基準は、標高差、残差DEM、粗さ指数、SU区画能力などです。 フェーズ2では、フェーズ1で最良とされたTINITALY30mを使用し、SUの最小面積(a)と円形分散(c)のパラメータを調整してSU区画を生成。SUの内部均一性・外部異質性(F)、SU内の土砂災害領域割合(A)、SUあたりの土砂災害密度(D)を統合したSメトリックという新しい最適化手法を提案しました。土砂災害感受性モデルには一般化加法モデル(GAM)が適用され、地形派生変数などが説明変数として使用されました。

結果 (Results): フェーズ1において、TINITALY30mがすべての評価指標で最も優れた性能を示しました。FABDEMはCOPと比較して斜面などの地形派生指標の表現において改善が見られず、TINITALY10mよりもTINITALY30mが優れており、高解像度が必ずしも良い結果を保証するわけではないことが示唆されました。 フェーズ2では、Sメトリックによりa=300x10^3 m^2、c=0.1の組み合わせが最適なSU区画と特定されました。土砂災害感受性モデルの評価指標(AUC、F1スコア、Kappa)はSメトリックの性能とは直接一致せず、訓練データセットのバランスに影響されることが判明しました。

考察 (Discussion): 本研究は、土砂災害研究においてTINITALY30mがマルケ地域でSU定義に最適であることを示しました。DEMは解像度だけでなく、データ品質や目的への適合性が重要であり、高解像度でもアーティファクトがあれば性能は低下します。提案されたSメトリックは、土砂災害の空間的特徴を捉えたSU最適化に有効ですが、感受性モデルの評価指標解釈には訓練データバランスの考慮が不可欠であると結論付けられています。

国内ではLPが公開されていますが、国外ではそうではないのでしょう。DEMの精度を比較し、目的(Landslide Susceptibility 評価)に適したユニット分割が重要とされています。機械学習の観点では、いくつかの解像度を試し良い結果を出すものを選定しますが、これはサイエンスではありません。斜面単位を目的に応じて作成・選定する、というのが求められる手順でしょう。

SU最適化に用いられた指標は以下のとおりです。

AI要約

1. F(アスペクトセグメンテーション指標 / Aspect Segmentation Metric)

 概念: 地形を、類似したアスペクト(斜面方位)特性を共有するピクセルをグループ化することによって分割するという概念に基づいています。

目的: SUの内部均質性(homogeneity)と外部異質性(heterogeneity)を評価するために使用されます。

 計算: 内部均質性を示す局所アスペクト分散 (V) と、隣接するSUの外部異質性を示す自己相関 (I) に基づいて算出されます。

 解釈: F値が高いほど、地形のセグメンテーション(分割)が優れていることを示します。これは、SUの内部は均質であり、隣接するSUとの間には明確な異質性があることを意味します。

2. A(地すべり拡張係数 / Landslide Extension Coefficient)

 概念: SU内で発生した地すべりの総面積のうち、そのSU内に収まっている地すべり面積の割合を合計したものです。

 目的: SUが地すべり領域全体をどれだけ適切に含んでいるかを評価します。

 計算: A = (i番目のSU内の累積地すべり面積の合計) / (i番目のSU内で発生した全地すべりイベントの総面積の合計)。

 解釈: A値が高いほど、SUが地すべり領域全体をよりよく包含していることを示します。理想的には、地すべりの領域がSUの外部に漏れ出ることなく、SU内に完全に収まっている状態が最適とされます。SUのサイズが大きいほど、地すべり全体を包含する可能性が高まる傾向があります。

3. D(地すべり密度係数 / Landslide Density Coefficient)

 概念: 各SUにおける平均地すべり数の逆数です。

 目的: SUの寸法の過大評価を避けるために導入されました。理想的には、SUは単一の地すべりに限定されるべきです。

 計算: 1/D = (i番目のSUで発生した地すべり数の合計) / (不安定なSUの数)。したがって、D値はD = (不安定なSUの数) / (i番目のSUで発生した地すべり数の合計)となります。

解釈: D値が高いほど、SUがより小さい領域に分割され、各SUに含まれる地すべり数が少ないことを意味します。これにより、SUの寸法が過大評価されることを防ぎ、地すべり事象をより正確に表現できます。

 

Sは、上記で説明したF、A、Dの3つの指標を統合した最終指標です。

計算: Sは、F、A、Dの正規化された値の積として定義されます。

 S(a,c) = [(F(a,c)-Fmin(a,c))/(Fmax(a,c)-Fmin(a,c))]
     * [(A(a,c)-Amin(a,c))/(Amax(a,c)-Amin(a,c))]
     * [(D(a,c)-Dmin(a,c))/(Dmax(a,c)-Dmin(a,c))]

 ここで、aはSUの最小表面積、cは地形の最小円形分散を表すパラメータです。

SUが最適と判断されるロジック: S指標を最大化するSUの最小表面積(a)と円形分散(c)の組み合わせが、研究地域におけるSU区画の最適なものと判断されます。 これは、F、A、Dの各指標がそれぞれSUの異なる「良さ」の側面(幾何学的分割の質、地すべり包含の効率、SUサイズの適切性)を評価しているため、S指標を最大化するということは、これらのすべての側面をバランス良く考慮し、総合的に最も優れたSU区画を見つけることを意味します。

簡単に言えば、SUが地すべりモデリングにおいて効果的であるためには、

1. 内部が均質で、隣接するSUとは明確に異なる(F値が高い)

2. 発生した地すべりをできるだけ完全に包含している(A値が高い)

3. 地すべりの寸法を過大評価せず、適切なサイズである(D値が高い) 

という3つの特性を同時に満たす必要があります。S指標は、これらの目標を正規化された積として統合することで、最適なSU区画を特定するための包括的な評価基準を提供します。

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20260228追記
以下が使用されています。V2で入れ子状態のポリゴンを作成できるようになっています。
Automatic optimization and delineation of nested slope units with r.slopeunits v2.0

2026年2月11日水曜日

河川砂防技術基準+生成AI

昨年から「NotebookLMがすごい!」と耳にしていましたが、別のLLMを利用することが多く利用する動機がありませんでした。
「この資料の中の情報に限る」というケースもありましたが 、情報をGoogle 側に渡すわけにもいかず、結局今まで触っていませんでした。

そのような中、国交省さんが河川砂防技術基準の生成AI用のデータセットを公開されていることに気づきました。

 活用しやすい河川砂防技術基準に向けての取り組み - 国土交通省水管理・国土保全局

生成AI活用のための学習用データセットの公開 (試行版)

河川砂防技術基準の参照に生成AIを活用するため、学習用のデータセット一式(以下の表参照)を作成しました。
参考に、無償で提供されているサービス(Google NotebookLM※1)の活用事例を紹介します。
これは画期的!?(ますます文字を読まなくなりそうです。)
早速使ってみました。

NotebookLMのチャット機能はOK。概要を把握するには十分です。
スライド機能はイマイチ。絵を生成できることは素直に感心しますが、専門的な絵は生成が難しそうでした。もう少し、時間が必要でしょうか。


今後、国交省さんは生成AIの利用を推進されるのでしょうか?他の基準も電子化が進んでいますが、生成AI利用での配信へ展開されるのかも知れません。頭の片隅に置いておきましょう。


2026年2月8日日曜日

文献:LSM uncertainty analysis

PyLandslide: A Python tool for landslide susceptibility mapping and uncertainty analysis - ScienceDirect

AI要約

背景
地すべりリスク評価において、専門家の主観的判断による重み付けが一般的だが、バイアスや不確実性が問題。
機械学習を用いた統計的アプローチが発展しているが、重みの不確実性の定量化が不十分。
既存ツール(LSM Tool Pack、LSAT PM等)は存在するが、不確実性分析機能が限定的。

手法
1.ジニ不純度に基づく特徴量重要度(重み)の計算
1)ランダムフォレスト内の各決定木において、ある特徴量で分岐する際のジニ不純度の減少量を計算
2)全ての木について、各特徴量による不純度減少量を合計
3)各特徴量の重要度 = その特徴量による不純度減少の合計 / 全特徴量による不純度減少の総和

2.不確実性分析の手法
20,000回の反復計算を実施
各反復で地すべり・非地すべり地点の80%をランダムサンプリング
accuracy 0.75以上のモデルのみの特徴量重要度(feature importance)を記録
重要度の範囲を集計し、限られたインベントリデータに起因する不確実性を定量化

3.LSI(Landslide Susceptibility Index)の算出
ある地点が地すべりに対してどれだけ脆弱であるかを数値化した指標
PyLandslideでは、複数の要因を重み付けして統合することで、空間的な地すべり発生リスクを評価

LSI = Σ(Wi × Si)

LSI: 地すべり感受性指数
Wi: 要因iの重み(weight)
Si: 要因iのスコア層(score layer)
n: 考慮する要因の総数

スコア層(Si)の算出方法
連続データ型要因(降水量、傾斜、道路距離など):
分位数による分類: データを11個の分位数(quantile)に分類
地すべり件数の計算: 各クラス内で発生した過去の地すべり件数を集計

降水量・傾斜: そのクラス以下で発生した地すべりの累積パーセンテージ
道路距離: そのクラス以上で発生した地すべりの累積パーセンテージ
降水量が17~80mmのクラス: 80mm以下で発生した地すべりの累積割合がスコア
道路距離が143~286mのクラス: 143m以上の距離で発生した地すべりの割合がスコア

カテゴリカルデータ型要因(土地被覆、岩相など):
各カテゴリ内で発生した地すべり件数を計算
各カテゴリのスコア = そのカテゴリ内で発生した地すべりのパーセンテージ

標準化
全ての要因について、スコアを0~100の範囲に線形正規化:
0: その要因クラスの最低寄与度
100: その要因クラスの最高寄与度

LSI分類基準
Very low: 0 ≤ LSI ≤ 20
Low: 20 < LSI ≤ 40
Moderate: 40 < LSI ≤ 60
High: 60 < LSI ≤ 80
Extremely high: 80 < LSI

感度分析の実施回数
歴史的降水条件について200回のランダムな重みの抽出を実施
9つの気候予測について各200回ずつ実施
内訳:
歴史的降水条件(1981-2023年):200回
将来予測(2041-2050年):9つの気候シナリオ × 各200回 = 1,800回
合計:200 + 1,800 = 2,000回

9つの気候シナリオ:
3つの気候モデル(ACCESS-ESM1-5、MRI-ESM2-0、UKESM1-0-LL)
3つの共有社会経済経路(SSP126、SSP245、SSP585)
3モデル × 3シナリオ = 9つの組み合わせ
この結果、LSIも範囲として表現される

結果
イタリアにおける6要因の重要度(重み)
道路からの距離: 0.43〜0.52(中央値0.47)
・最も影響が強い
・過去の地すべりの85%が道路から143m以内で発生

傾斜: 0.16〜0.23(中央値0.20)
・2番目に重要
・過去の地すべりの70%が傾斜9%以上の地域で発生

土地被覆: 0.10〜0.13(中央値0.12)
地質: 0.07〜0.09(中央値0.08)
降水量: 0.05〜0.07(中央値0.06)
TWI(地形湿潤指数): 0.05〜0.08(中央値0.06)

モデル精度
訓練データでの全体精度: 0.80〜0.82
テストデータでの全体精度: 0.75〜0.80
過学習は認められない

lSI評価
歴史的期間(1981-2023):
「極めて高い」: 7.8〜9.5%
「高い」: 23.8〜26.8%

将来予測(2041-2050):
「極めて高い」: 5.3〜7.6%(減少傾向)
「高い」: 21.5〜28.3%

イタリア北西部と南部で大幅に低下
北東部で増加

考察
人為的要因(道路)が最大の影響
道路建設に伴う斜面切土や人間活動が斜面安定性を低下

不確実性の重要性
重みの不確実性範囲を考慮することで、より堅牢な意思決定が可能
インフラ投資計画において、重みの不確実性を考慮した堅牢な地すべりリスク評価が可能

研究の限界
気候変動の影響評価
降水量変化のみを考慮、温度・山火事・植生変化は未考慮

入力データの精度
ITALICAデータベースの位置精度は最大5.6kmの誤差
より高精度なデータが望ましい

閾値の設定
accuracy0.75の閾値は本研究で設定したが、絶対的な基準ではない
ユーザーのニーズに応じて調整可能

国外では、LSM作成において機械学習を用いるアプローチは既に一般化していると言えますが、そこに不確実性評価が入っています。といっても、重要度の示し得る範囲を利用しているだけですから、新たなツールは不要です。
この文献のLSIの定義が正解かどうかはわかりませんが、少なくとも確率を導入する方針については同意です。

2026年2月6日金曜日

AIの利用法

【優勝🥇】防衛省サイバーコンテストをAIで攻略した話 #Security - Qiita

このような時代なのですね。AIで攻撃、AIで防衛。

勝敗はAIで解けない超高難度の問題で決まります。

うーん。考えさせられます。

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20260211追記

そういえば、「半分は生成AIにつくらせたでしょう」と思わせる海外の方からもらった査読結果がありました。それなら生成AIに回答の素案を作成させましょう、と考えたことがあります。単純なのか複雑なのかわからない時代で、戸惑います。


文献:Probabilistic rainfall thresholds for landslide occurrence using a Bayesian approach

 Probabilistic rainfall thresholds for landslide occurrence using a Bayesian approach - Berti - 2012 - Journal of Geophysical Research: Earth Surface - Wiley Online Library

AI要約+α

背景
従来の地すべり予測手法は、地すべりを引き起こした降雨イベントのみを考慮し、決定論的閾値を提供してきた。しかし、斜面安定性は降雨だけでなく、多数の要因の組み合わせで決まるため、同じ降雨条件でも異なる結果(地すべり発生/非発生)が生じる。経験的モデル:降雨強度-継続時間(ID)閾値が一般的だが、不確実性の定量化が不十分である。

研究の対象地域
イタリア・エミリア=ロマーニャ州の山岳地域(12,000 km²)
1939年以降の4,000件以上の地すべり履歴データ
176箇所の雨量計による日降水量データ


手法
1. ベイズの基本手法(1次元解析)
P(A|B) = [P(B|A) × P(A)] / P(B)
P(A|B): 事後確率 - 降雨Bが発生したときに地すべりAが起こる確率(求めたい値)
P(B|A): 尤度 - 地すべりが発生したときに降雨Bが観測される確率
P(A): 事前確率 - 降雨に関係なく地すべりが発生する確率
P(B): 周辺確率 - 地すべりに関係なく降雨Bが観測される確率

実際の計算では、以下のように相対度数で近似:
P(A) ≈ NA / NR  (地すべり発生数 / 全降雨イベント数)
P(B) ≈ NB / NR  (降雨Bの発生数 / 全降雨イベント数)
P(B|A) ≈ N(B|A) / NA  (降雨Bで発生した地すべり数 / 全地すべり数)P
(A|B) ≈ N(B|A) / NB

一変量例(強度 I>40 mm/日)
・事前 landslide 確率:P(A)=5/20=0.25
・強度大の割合:P(B)=P(I>40)=9/20=0.45
・発生時の強度大割合(尤度):P(B|A)=4/5=0.8

→ P(A|I>40)=P(B|A)·P(A)/P(B)=0.8·0.25/0.45≃0.44

降雨B発生時の地すべり確率は44%である。これは尤度P(B|A)=80%とは異なることに注意が必要。事前確率と周辺確率を考慮する必要がある。

2. 2次元ベイズ解析
2つの変数B(降雨強度I)とC(降雨継続時間D)を考慮:
P(A|B,C) = [P(B,C|A) × P(A)] / P(B,C)
ここで、P(B,C)は2変数の同時確率(ある強度と継続時間の組み合わせが観測される確率)を表す。

各セルでの確率計算
二変量例(I>50 mm/day かつ D<=1 day)
・事前 landslide 確率:P(A) = 5/20 = 0.25
・降雨条件を満たす割合:P(B,C) = P(I,D) = 4/20 = 0.20
・発生時の当該領域割合(尤度):全地すべり5件中、この条件で発生2件
   P(B,C|A) = P(I,D|A) = 2/5 = 0.40

→ P(A|I>50, D≤1)= P(A|B,C) = [P(B,C|A) × P(A)] / P(B,C) =0.40·0.25/0.20=0.50

I-D平面全体の確率分布ヒストグラムを作成。
強度と継続時間の相互作用効果を把握。
確率の空間分布パターンを視覚化。
高リスク領域の明確な識別。


結果
1次元ベイズ解析の結果
有意な変数:総降雨量E、継続時間D、平均強度I
P(B|A)とP(B)の分布が明確に異なる
P(A|B)が事前確率P(A)=0.005を大きく上回る
特に降雨強度Iが最も有意:I>100mm/dayでP(A|I)=0.28

非有意な変数:先行降雨AE14, AE30
P(B|A) ≈ P(B)
P(A|B) ≈ P(A)

研究地域では先行降雨は地すべり発生と相関が低い。
降雨の激しさ(総量、継続時間、強度)とともに地すべり確率が増加。
ただし、極端な値では確率が減少する傾向(サンプルサイズの問題と定義バイアスによる)。

2次元ベイズ解析の結果
特定のI-D値で確率が急激に増加。これはシステムの状態の根本的変化、物理的閾値の存在を示唆。不確実性を含めた警報システムの構築に有用。


考察

1. ベイズ手法の利点
統計的厳密性:事前確率と周辺確率を考慮:尤度P(B|A)だけでなく、降雨の頻度P(B)と地すべり発生率P(A)を組み込む。
認知バイアスの回避:人間の直感的判断は事前確率を無視しがち(「80%の地すべりがI>50で発生」≠「I>50で地すべり確率80%」)。
不確実性の定量化:0〜1の連続値で確率を表現、決定論的手法の曖昧性(「閾値超過時に何が起こるか?」)を解消、信頼区間により推定の信頼性を評価

2. 先行降雨の非有意性
一般に細粒土壌では先行降雨が斜面安定性に重要とされるが、本研究では相関が低い。研究地域の地すべりは主にイベント降雨に対する急速な水文応答が支配的。60%の地すべりが降雨終了時またはその直後に発生。
深層地すべりでも、長期的な要因よりも短期的な降雨イベントが引き金となる。

3. 物理的閾値の示唆
I-D平面の特定領域で地すべり確率が急激に上昇。これはシステムの状態変化(安定→不安定)を示唆。
確率的手法であっても、背後に物理的メカニズム(臨界間隙水圧など)が存在。確率分布のパターンから、真の物理的閾値の存在を推測可能。

4. 方法論的課題と解決策
多発地すべりの扱い
方針:同一降雨による複数地すべりは1イベントとしてカウント。
理由:P(A) = NA/NR > 1を避け、統計的整合性を保つ。

バイアスへの対応
問題:誘因降雨は地すべり発生日で打ち切られるが、非誘因降雨は降雨終了まで継続。
影響:極端な長継続時間での確率推定に影響。
緩和:信頼区間の提示、データの60%が降雨終了時に発生することで影響を軽減。

Landslide発生降雨をベイズ手法で評価した少し古い文献です。基本的には、国内で研究されている降雨数ベースの評価と変わりません。
国内では短期雨量と土壌雨量指数の2軸で評価されます。スネーク曲線を書いてピークで評価したりするのですが、原点から離れるにつれてレアな雨(P(B,C) ≒0)となり、確率が極端に高くなります。これ、補正したいですよね。

2026年2月2日月曜日

文献:Contact modelling approach to simulate water flow in a rock fracture

Contact modelling approach to simulate water flow in a rock fracture under normal loading – Modelling report of Task 10.2.2. Task 10 of SKB Task Force GWFTS – Validation approaches for groundwater flow and transport modelling with discrete features – SKB.com

AI要約

背景
未開口の自然岩盤亀裂に対し、法線荷重を変化させたときの流量を「ブラインド予測」する課題。
亀裂を有する岩試料で水理‐力学試験を実施後、亀裂を開口し両面を高精度スキャン、その後再装着して再試験。
目的:単一亀裂での荷重‐変形‐流れの関係と流路のチャンネリング、ならびに実務的な検証手法の検討。

手法
使用コード:COMSOL Multiphysics。
流れ:低レイノルズ数の定常流とし、Navier–Stokes式から慣性項を除いたStokes流として 3D 解析。
岩盤変形:線形弾性・等方・連続体とし、亀裂面の接触を「拡張ラグランジュ法」による接触条件で表現。

モデル群:
Analytical Model:平行平板間流れ(立方則)でスキャン精度が流量に与える影響を評価。
Parallel Plate Model:3D平行平板の数値解で解析解との整合とメッシュ条件を確認。
Small Surface Model:小さな実測亀裂面(Task 10.2.1)を用い、上面のx,y,z変位とz軸回転の影響をDSDによる感度解析。
Nearing Contact Model:上下岩体を初期ギャップから押し付ける接触モデル(1 MPa荷重)。
Departing Contact Model:初期的に重なりを与えた状態から上盤を押し上げる接触モデル(0,1,2,4,6,8 MPa)。
接触オフセット:数値的な「めり込み」を避けるため、上下面の最小間隔を強制(0.05–0.1 mm)。この仮定が開口と流量を増大。

結果
Analytical / Parallel Plate:開口 = スキャン精度0.035 mmに対応する流量は約0.1 ml/sで、実測流量と同程度。実測から逆算した等価平行平板開口はいずれもスキャン精度以下。
Small Surface Model:x,y,z変位はいずれも統計的に有意で、とくにz方向変位が流量に最も強く影響。z軸回転はほぼ無影響。
Nearing / Departing Contact:接触解析から得た変形後空隙でStokes流解析を実施。

いずれの荷重・接触アプローチでも、予測流量は実測より数桁大きい。接触オフセットやスキャン精度、初期位置誤差、補間誤差、弾性仮定を考慮しても、この差を説明できない。
von Mises応力は局所的に一軸圧縮強度を超え、現実には局所破壊や塑性変形が起こる可能性が高いことを示唆。

考察
スキャン精度0.035 mmでは、実測レベルの微小流量を信頼性高く再現するには不足。逆算開口が常に精度以下であるため、幾何データに根本的な限界。
上下亀裂面の水平方向移動(x,y)とより精密なインターロッキング、ならびに岩の塑性変形・破壊を無視しているため、実際より開口が大きく評価され、流量を過大評価している可能性が高い。
接触オフセットは数値上必要だが、同時にモデルに系統的バイアス(過大開口)を導入する。
既知の不確実性を考慮しても、モデルと実験の乖離は説明できず、「未知の支配的要因」が欠落していると結論。
接触モデル+詳細幾何に基づく手法は、本課題のような極めて小さい流量の予測には実務的でなく、より小さい試料や高精度スキャン、あるいは別の概念モデルが必要と提言。
併せて、複数現象・複数検証を通じたモデルの「妥当性ランクR」を定義する検証評価指標を提案し、今後のモデル群の統合的評価に用いることを示唆。

0.035mmで精度が不足とは、驚きです。いえ、このような制度が出せるのも驚きなのですが。地層処分ですので細かい。
使われた 3 つの接触法(ペナルティ、拡張ラグランジュ、Nitsche)、どれも知りませんでした。拡張ラグランジュが最もオーバーラップ(食い込み)が小さいものの計算コストが高いそうです。オーバーラップを完全にはゼロにするには非常に細かいメッシュが必要で、現実的なメッシュでは 0.01–0.1 mm 程度の食い込みが残ると報告されていますが、それでも完全には抑えきれなかったとのこと。扱うスケールが全く異なります。




文献:Site scale modelling of groundwater evolution

Site scale modelling of groundwater evolution at SFR. A modelling application with iDP – SKB.com

AI要約

背景
スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)は、Forsmarkにある低・中レベル放射性廃棄物の最終処分場SFRの拡張を計画している。地質学的な処分の候補地の信頼性ある評価には、地下水の流動(hydrogeology)と地下水化学(hydrochemistry)を統合したモデル構築が必要である。しかし、数値的・概念的な制約や計算負荷のため、多くの従来研究ではこれらの重要なプロセスを個別に扱ってきた。本研究では、SFR周辺の地圏の進化を記述する3次元反応輸送モデルの構築と検証を目的とし、地下水流動と化学反応を統合したモデル化に取り組んだ 。

手法
本研究では、DarcyToolsとPFLOTRANという2つの計算コードを連結する「iDP(interface DarcyTools-PFLOTRAN)」を活用した。DarcyToolsは複雑な地層中の流れ・物質輸送を、PFLOTRANは高性能計算環境での流れ・反応輸送をそれぞれ扱う。DarcyToolsで得られた透水性・圧力場等をPFLOTRAN形式に変換し、反応輸送シミュレーションを行う。地圏を等価連続多孔質媒体(ECPM)として上流から下流までを模擬し、rock matrix領域は「multi-continuum approach(Lichtner法)」により反応性を持たせている。
モデルの検証のため、1D、2D、多孔質岩石行列を想定したモデルや解析解を利用。化学反応は前研究FASTREACTとの比較のためベースケース(方解石+ヘマタイト平衡)とバリアントケース(方解石+非晶質硫化鉄(FeS(am))平衡)の2通りを設定。3500年間(2500〜6000AD)の沿岸線移動および気候変動・地下水組成の変化も考慮した。

結果
3D反応輸送計算により、岩石マトリクス領域を含むモデルと含まないモデル(FASTREACTと同水準の設定)の比較が可能となった。
塩化物(Cl)の分布は、希釈・海岸線移動による水侵入の影響をよく再現し、岩石行列の拡散効果による急激な化学変化の緩和が見られた。
pH値は両ケースとも7.2〜8で安定。pe値、還元状態も3500年の計算期間で安定して保持された。
Fe2+等については、岩石マトリクスでの biotite 溶解による供給があり、反応的な鉱物(ヘマタイトあるいはFeS(am))の存在条件によって、濃度推移が異なった。
主要カチオンの動態、水理パターン、時空間分布についても詳細な可視化を3Dで実現した。

Fe^2+の濃度進展には岩石マトリクスの反応性の影響が顕著であった。バリアントケース(FeS(am)平衡)ではFe^2+の濃度はベースケース(ヘマタイト平衡)に比べて低下し、FeS(am)の沈殿が効果的なFe^2+の吸収源=シンクとなっていることが示された。 

Cl^-のような保存的成分(反応しない成分)は水収支および拡散・移流の指標として有用であり、モデルでの到達遅延や空間分布が確認された

考察
岩石マトリクス(そのパラメータ)の設定によって、地下水組成の急激な変化(例:希釈効果、流動路の変化)が拡散・反応により緩和されることが示された。
従来の1DモデルやFASTREACTによる結果と、今回の3Dモデル(岩石マトリクスを加味したもの)の比較で、岩石マトリクスを考慮することの重要性が強調された。
モデルパラメータ(特に岩石マトリクスの空隙率、表面積等)が地質環境ごとに大きく異なるため、今後は現場データによるパラメータ同定が重要になる。
開発した3Dモデル(iDP)は、今後より複雑・広範なスケールでの安全評価や、放射性核種の挙動・バリア相互作用のモデル化が期待される。


亀裂(fracture)の移流分散と、岩石マトリクス拡散を解いているようです。岩石中の拡散パラメータを設定するのは難しいでしょうね。
反応計算の地球化学的パラメータは前研究FASTREACT(Román-Ross et al. 2014)のモデルに準拠とのこと。どのようなものでしょうか。


2026年2月1日日曜日

1次元移流分散(有限差分法、Python)

GitHubで水理公式集例題集2024 のコードを眺めていた時に、地下水の不飽和浸透や移流分散計算がUPされているのを見かけました。

EXCEL版 と Fortran版 があり、懐かしいなあと思いつつ「例題 1.24 水平一次元帯水層を対象とした溶質輸送過程の計算(数値解)」の Fortran コードを Python に移植してみました。
で、結果が全く同じだったことには少し驚かされました。

以下、コードに沿ったFTCS(Forward-Time Centered-Space)による離散化とスクリプトです。手元に例題集が無いため、表現は異なるかもしれません。スクリプトではスライスを利用することで計算が1行となり、見やすくなりました。実際の地下では流速や流量が一定ではないので、ここまで簡素にはできませんが、まずはここからなのでしょう。


1. 支配方程式
∂c/∂t + v·∂c/∂x = D·∂²c/∂x² ……(1)
ここで、
c : 濃度 (mg/L)
t : 時間 (day)
x : 距離 (m)
v : 移流速度 (m/day)
D : 分散係数 (m²/day)

2. 差分近似
2.1 時間微分の前進差分
時刻 t における時間微分を前進差分で近似すると、
∂c/∂t ≈ (c_i^(t+1) - c_i^t) / Δt ……(2)
ここで、
c_i^t : 格子点 x_i、時刻 t における濃度
Δt : 時間ステップ

2.2 空間2次微分の中心差分(拡散項)
格子点 x_i における空間2次微分を中心差分で近似すると、
∂²c/∂x² ≈ (c_(i+1)^t - 2·c_i^t + c_(i-1)^t) / Δx² ……(3)
ここで、
Δx : 空間格子間隔

2.3 空間1次微分の後退差分(移流項)
v > 0(下流方向の流れ)を仮定し、上流差分(upwind差分)を適用すると、
∂c/∂x ≈ (c_i^t - c_(i-1)^t) / Δx ……(4)

3. 差分方程式の導出
式(1)に式(2)、(3)、(4)を代入すると、
(c_i^(t+1) - c_i^t) / Δt + v·(c_i^t - c_(i-1)^t) / Δx
= D·(c_(i+1)^t - 2·c_i^t + c_(i-1)^t) / Δx² ……(5)

式(5)の両辺に Δt を掛け、c_i^(t+1) について解くと、
c_i^(t+1) = c_i^t
+ (D·Δt/Δx²)·(c_(i+1)^t - 2·c_i^t + c_(i-1)^t)
- (v·Δt/Δx)·(c_i^t - c_(i-1)^t) ……(6)

ここで、
r_diff = D·Δt / Δx² (拡散数)
r_adv = v·Δt / Δx (クーラン数)
を用いると、式(6)は以下となる。
c_i^(t+1) = c_i^t
+ r_diff·(c_(i+1)^t - 2·c_i^t + c_(i-1)^t)
- r_adv·(c_i^t - c_(i-1)^t) ……(7)


import numpy as np
import csv

# +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
# 1次元移流分散方程式の数値解析
# 有限差分法:FTCS(Forward-Time Centered-Space)
# ∂c/∂t + v ∂c/∂x = D ∂²c/∂x²
# +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

def reidai082():
    # ----- パラメータ設定 -----
    xmax  = 30.0        # 解析領域の長さ (m)
    dx    = 1.0         # 差分格子間隔 (m)
    dx2 = dx ** 2     # 差分格子間隔の二乗
    imax = int(xmax / dx) + 1    # 下流境界の格子点番号

    xo  = 10.0   # 濃度観測地点(m)
    ii1 = int(xo / dx)   # Python 0-based インデックス

    vel   = 0.1         # 実流速 (m/day)
    al    = 1.0         # 縦分散長 (m)
    tau   = 1.0         # 屈曲率 (-)
    dm    = 1.0e-5      # 分子拡散係数 (cm^2/s)
    # 分散係数 D (m2/day)
    # dm を m2/day に換算するために 1 cm2/s = 8.64 m2/day
    D     = al * abs(vel) + tau * dm * 8.64

    bc    = 1.0         # 上流境界の濃度 (mg/L)

    tend  = 300.0       # 計算時間 (day)
    dt    = 1.0         # 時間ステップ (day)
    nmax  = int(tend / dt)   # 計算時間のステップ数

    tjikan = 1.0        # 結果をファイルに出力する時間間隔(day)
    iout1 = int(tjikan / dt)   # 結果をファイルに出力する時間間隔のステップ数

    # ----- グリッド設定 -----
    x    = np.linspace(0, xmax, imax)

    # ----- 配列の用意 -----
    c  = np.zeros(imax)  # 新しい時刻の濃度
    co = np.zeros(imax)  # 1ステップ前の濃度

    # ----- 係数の用意 -----
    r_diff = D * dt / dx2
    r_adv  = vel * dt / dx

    # 初期条件:上流境界だけ bc
    co[0] = bc

    # ----- 出力ファイル準備 -----
    out_filename = 'output.csv'
    with open(out_filename, mode='w', newline='') as f:
        writer = csv.writer(f)
        writer.writerow(['elapsed-time(days)', 'concentration(mg/L)'])
        # t=0 のデータ
        writer.writerow([f"{0.0:.1f}", f"{co[ii1]:.7f}"])

        # ----- 時間ループ -----
        time = 0.0
        iout  = 0
        for n in range(1, nmax+1):
            time += dt
            iout += 1

            # ---- 境界条件 ----
            co[0]      = bc      # 上流
            co[-1]     = 0.0     # 下流

            # ---- 内部格子の更新 (FTCS) ----
            # c[i] = co[i] + D*dt/dx^2*(co[i+1]-2*co[i]+co[i-1])
            #                  - vel*dt/dx*(co[i]-co[i-1])
            # スライスで一括計算
            # co[1:-1]:インデックス 1~N−2 の内部点
            # co[2:] :インデックス 2~N−1
            # co[:-2] :インデックス 0~N−3

            c[1:-1] = (co[1:-1]
                       + r_diff * (co[2:] - 2*co[1:-1] + co[:-2])
                       - r_adv  * (co[1:-1] - co[:-2]))

            # 更新
            co[:] = c[:]

            # ---- 出力 ----
            if iout == iout1:
                print(f"{time:6.1f} days")
                writer.writerow([f"{time:.1f}", f"{co[ii1]:.7f}"])
                iout = 0